遠隔臨場とは?建設現場でおこなわれる背景やメリット・デメリット、具体的な導入事例まで詳しく解説

防災対策や復旧工事、インフラの再整備などの需要に対し、建設業界の労働人口の減少は大きな社会問題となっています。国土交通省では、労働人口の減少を上回る生産性の向上を目的とした施策のひとつとして、すべての建設現場におけるICTの活用を推進しています。遠隔臨場は、従来監督員が建設現場に移動しておこなっていた臨場を、情報通信技術を活用して建設現場と事務所を映像や音声でつなぎ、リモートで臨場をおこなうことです。遠隔臨場について、導入が推奨されている背景や、導入のメリット・デメリット、具体的な導入事例を含めて詳しく解説します。

この記事はこんな読者におすすめ

  • 遠隔臨場とは何か、詳しく知りたい
  • 遠隔臨場のメリットやデメリットについて知りたい
  • 遠隔臨場の事例を知りたい
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遠隔臨場とは

遠隔臨場とは、従来、建設現場などで受注者と監督者側である発注者が、直接会っておこなっていた「段階確認」、「材料確認」、「立会」を、発注者が現地に移動することなく、動画カメラやウェアラブルカメラなどから得られた映像や音声を利用して、離れた場所から行うことをいいます。

国土交通省では、建設現場の生産性を向上させるためにi-Constructionを推進していますが、その施策のうちのひとつとして情報通信技術の活用が掲げられています。情報通信技術を駆使した遠隔臨場の試行が令和2年度からはじまり、現場への移動時間や、立会にともなう受注者の待ち時間の短縮などの効果が認められました。遠隔臨場は、令和4年度以降本格的な実施となり、通信環境が整わない現場や工種によって非効率になる現場を除く、遠隔臨場が適用できるすべての公共工事への導入が進められています。

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遠隔臨場が注目されるようになった背景

遠隔臨場が注目されるようになったのは、どのような背景があったのでしょうか。4つの切り口に分けて説明します。

労働人口の減少という社会的背景

遠隔臨場が注目されるようになったのは、建設現場を支えてきた作業員の高齢化や、若い世代の就労希望者が少ないことによる、労働人口の減少という社会的な背景があるからです。
建設業界や経済の発展を維持するためには、労働人口の減少を上回る生産性の向上が求められますが、建設現場はさまざまな技能を持った多くの作業員の労働力に頼っている労働集約型生産という特性があるため、生産性の向上は非常にハードルが高いと考えられていました。こうした建設現場において、業務の効率を高めて、抜本的に生産性を向上させる方法のひとつが遠隔臨場が挙げられることが、注目を集めている理由です。

国土交通省によるi-Constructionの推進

国土交通省では、建設現場の生産性を向上させるためにi-Constructionを推進しており、すべての建設現場におけるICTの活用は、同省が提唱するトップランナー施策のひとつです。遠隔臨場はICTを活用して建設現場とWeb会議をつなぐため、現場に足を運ぶことなく臨場がおこなえます。そのため、無駄な移動時間や待ち時間、コストなどが削減され業務を効率化できることが、多くの建設現場において遠隔臨場が注目された背景のひとつです。

コロナ禍で進んだ感染対策としての遠隔臨場

2020年以降の新型コロナウイルス感染症の流行では、感染対策のひとつとして多くの企業でリモートワークが推奨されました。建設現場においても接触機会を減らすことが可能であり、コロナ禍における感染対策のひとつとして、遠隔臨場の導入に拍車がかかった背景のひとつといえるでしょう。

品質確保の促進に関する法律の改正

令和元年に、「公共工事の品質確保の促進に関する法律(品確法)」が改正され、情報通信技術の活用が、継続してインフラの品質を確保し、生産性の向上や働き方改革を推進するために必要であることが明言されたことも、遠隔臨場が注目された背景のひとつです。遠隔臨場における映像記録の保存や施工データの自動計測、解析技術などは、不正行為の抑制や現場内での不安全行動にもつながることが期待されています。

遠隔臨場のメリット・デメリット

次に、遠隔臨場を導入するメリットやデメリットについて説明します。

遠隔臨場のメリット

遠隔臨場は生産性を飛躍的に向上させることが目的で導入されますが、遠隔臨場の導入にともない、以下のようなメリットが期待できます。

期待されるメリット

理由

無駄な時間を削減し効率的に時間を活用できる

・移動にかかる時間や回数の削減
・現場での待機時間の削減
・渋滞や電車の遅延など交通状況による影響を回避
・立会の設定時間の制約がなくなり時間調整が容易(早朝、夕方など)

コストが削減できる

・移動にかかる交通費やガソリン代の削減
・書類の電子化によるペーパーレス
・人件費、残業手当の削減

リアルタイムで確認できる

・映像および音声による確認
・施工計画書、仕様書、基準などを手元で参照しながら現場確認 

安全性が向上する

・危険性の高い現場における第三者災害を回避 
・トラブル発生時にリアルタイムでの対応が可能
・ヒヤリハットの状況も記録に残るため対策が可能

人手不足が解消できる

・少人数で複数の現場の管理が可能
・web会議の利用

保存データを活用できる
(活用例)
・立ち合いの後日確認
・不正行為の抑制など

・映像や音声を電子データとして保存
・設計図書などの保存

感染症対策ができる

・非接触での作業

人材育成に活用できる

・現場にいない熟練者からの指導が可能
・保存データを教育資材として活用

遠隔臨場のデメリット

遠隔臨場にはメリットがある一方、課題としてあげられるデメリットもあります。次にいくつかデメリットを紹介します。

想定されるデメリット

理由

事前準備のハードルが高い

・機材の準備が必要
・現場臨場に近い状況を作るために複数のカメラの設置が必要
・新技術を搭載した機器の導入が必要な場合がある

トラブルによる時間延長や延期の可能性がある

・通信トラブル 
・機器の故障

時間のロスの可能性がある

・操作に慣れていない

現場臨場との違いがある

・視野がカメラ目線のみ
・音声が途切れたり聞き取りにくかったりする
・コミュニケーションが少なくなる
・細かい部分や数値は判別しづらい

遠隔臨場を導入する際の注意点

遠隔臨場に関する留意点は、国土交通省による「建設現場における遠隔臨場に関する実施要領 (案) 令和5年3月」にも示されていますが、遠隔臨場を導入する際の注意点を、大きく4つに分けて説明します。

通信環境の整備と対策についての注意点

遠隔臨場ができる通信環境を整備する必要があります。また、動画カメラやウェアラブルカメラで必要な画像が撮影できているか、またWeb 会議システムに途切れずに映像や音声をつなげることができるかなど、事前に確認します。特に、夏場の気温上昇や地下水の多量の出水など、施工計画の時点では想定できない状況により通信機器に故障が生じることがあるため、遠隔臨場の実施の可否や、メールなどの代替案、別日の設定など事前に受発注者間で対応を協議するようにしましょう。

プライバシーへの配慮

プライバシーに関する注意点として、遠隔臨場をおこなう工事現場の作業員に対し、あらかじめ撮影の目的や用途などを説明し、承諾を得る必要があります。また、作業員のプライバシーを侵害する音声が配信されたり、画像が映り込んだりしないよう注意します。もし、建物内部や人物が記録映像に映り込んだ場合には、特定できないよう措置をする必要があります。

機材の調達や整備とその費用に関する注意点

遠隔臨場にともなう費用に関する注意点があります。遠隔臨場に使用する撮影機器などは、基本的に受注者が調達・準備しますが、そのリース費用や設置費、通信費などの費用は、発注者が計上します。

遠隔臨場を安全におこなうための注意点

動画を撮影している時の注意点として、対象物に意識が集中して足元への注意が薄れていたり、カメラの保持や撮影で両手がふさがっていたりするため、転倒などの事故につながることがあります。移動しながら撮影する時には、段差や障害物に注意する必要があります。

遠隔臨場に活用できるカメラ

遠隔臨場に活用できるカメラおよびソフトウェアなどのシステムについて説明します。

カメラの仕様

遠隔臨場をおこなう場合、カメラの仕様には条件がありますが、指定の製品はありません。「建設現場における遠隔臨場に関する実施要領 (案) 令和5年3月」で示されているカメラの仕様は以下の通りです。

 

仕様

映像

画素数:640× 480以上( カラー)
フレームレート:15fps以上

音声

マイク:モノラル(1 チャンネル)以上 
スピーカー:モノラル(1チャンネル)以上

カメラに必要とされる性能など

遠隔臨場では、目線での撮影が可能な頭部や胸部に取り付け可能なウェアラブルカメラが使用されることが一般的です。また、過酷な環境で使用する可能性が高いため、防水、防塵、耐温度などの性能が備わっていることが重要なポイントになります。

また、カメラにLTEやLANが内蔵されている場合には、単独でWeb会議への通信が可能ですが、通信機能が搭載されていない場合には、アプリをインストールしたスマートフォンなどに接続して通信する必要があります。

ウェアラブルカメラおよびシステムの紹介

では、実際に建設現場において使用されているウェアラブルカメラやシステムを紹介します。

ウェアラブルカメラ

Safie Pocket2(国土交通省 新技術情報提供システム(NERTIS)登録番号KT-220006-A)

カメラ

胸部取り付けおよび設置可能なウェアラブルカメラ

音声

双方向で通話が可能

防水性能など

IP67防水防塵、耐温度(-20℃~50℃)

通信

LTE通信(内蔵)または無線LANによる通信

バッテリー

8時間(モバイル充電が可能)

ディスプレイ

背面にあるため確認しながら撮影が可能

画質

HD高画質動画、8倍デジタルズーム

保存

クラウド

ウェアラブルカメラ

Xacti CX-WE100(NERTIS登録番号 KK-210059-A)

カメラ

頭部取り付け型のウェアラブルカメラ

音声

マイク:モノラル。スピーカー:なし

防水性能など

IP65防水防塵、耐温度(-5℃~50℃)

通信

Xacti Viewer Proをインストールしたスマートフォンにより通信

バッテリー

接続したスマートフォンもしくはモバイルバッテリーから供給

ディスプレイ

なし

画質

フルHD(1920×1080)、2~4倍デジタルズーム

保存

クラウドに保存

ネットワークカメラ+システム

WebView Livescope

高性能なレンズを搭載したネットワークカメラから得られた映像を、カメラサーバーを介して、WebView Livescopeビューワソフトウェアをインストールした遠隔地にあるPCなどから、カメラのアングルやズームを切り替えて確認するシステムです。
画像解析ソフト、マイクやスピーカーなどもオプションが可能で、複数の拠点に設置したネットワークカメラをモニターすることも可能です。赤外線照射機能で、建設現場の夜間の防犯管理体制にも役立てることができます。

遠隔臨場の事例

遠隔臨場を導入した事例を紹介します。

1:旧江戸川しゅんせつ工事(東京都建設局)

移動時間の削減により効率的な業務が出来た事例

工期

令和4年6月13日~11月18日

工事概要

東京都建設局が定める河川整備計画に基づき、旧江戸川の河川維持のため河川に堆積した土砂掘削をおこなう。

遠隔臨場を活用した範囲

施工状況の確認その他

使用機器

記録:ウェアラブルカメラ(GENBA-Remort/タブレットPC)
配信:Web会議システム(Microsoft Teams)

遠隔臨場の効果

河口部と上流部の2ヵ所の施工現場に対する遠隔臨場を実施した。
受注者)
施工現場の移動に約30分かかり、立会時間が長時間になることが想定されたが、遠隔臨場を活用することで、効率よく立会をおこなうことができた。

発注者)
事務所から上流の現場までの往復には2時間以上かかるところ、遠隔臨場により移動時間がなくなり効率的に業務をおこなうことができた。

工夫した点や課題

・撮り逃がしがないように、ウェアラブルカメラ以外にデジタルカメラも使用した。
・音声・映像に乱れが生じることがあった。

2:品木ダム浚渫工事(関東地方整備局)

待ち時間の短縮や感染対策の事例

工期

令和5年4月3日~R6年1月31日

工事概要

品木ダム浚渫工事

遠隔臨場を活用した範囲

浚渫運転工 跡坪事後測量

使用機器

記録:スマートフォン
配信:SiteLive(スマホアプリ)

遠隔臨場の効果

・待機時間の必要がなくスムースに立会ができた。
・不特定多数の人との接触がなく感染対策に有効
・デジタル機器を導入したことで、効率的な計測が出来た

工夫した点や課題

・GPS測位システムの導入
・コストがかかることが課題
・不慣れな技術者には研修によるサポートが必要

3:国道20号相模原市緑区吉野外防災工事(関東地方整備局)

安全性向上の事例

工期

令和4年4月1日~令和5年8月31日

工事概要

国道20号相模原市緑区吉野外防災工事

遠隔臨場を活用した範囲

・急峻な現場にて臨場する際の監督員の危険リスクの回避
・電子黒板写し込み機能を利用し撮影時の施行者の人員を削減

使用機器

記録:SiteBox(スマホアプリ)
配信:SiteLive(スマホアプリ)

遠隔臨場の効果

・スマートフォンの活用、立会時の人員の削減で安全性が向上
・電子黒板活用による人員の削減
・電子黒板は鮮明で読み取りやすい

工夫した点や課題

通信環境が悪い現場に対する対応が課題

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