建設業界は人手不足や高齢化などの理由から他の産業に比べて労働生産性が低く、課題解消に向けた取り組みが急がれています。とりわけAIの活用には、建設業の働き方改革を実現し、生産性を向上させ、民間投資を活性化する効果が期待されています。本記事では、建設業における課題を踏まえた中長期的なAI活用の目的や将来像、そして現在おこなわれているパターン別のAI活用事例や導入時に注意すべきポイントなどを解説します。
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建設業界は慢性的な人手不足と長時間労働から労働生産性が20年以上、全産業平均より大幅に低い傾向にあります。そのため、生産性の向上を目的に、ICTを活用したi-Constructionが推進されています。この過程で得られる建設現場のビッグデータを利用してさらに効率を高めるには、AIをはじめとする最新のデジタル技術が欠かせません。
AIの活用により作業の自動化が進めば、熟練技能者の技術やノウハウを承継して、さらに高度な技術へと発展させ、生産性の向上とともに品質の向上にも寄与することが期待されます。
建設業に従事する就業者の数は1997年の685万人をピークに、その後は減少が止まらず2022年にはピーク時の約7割、479万人まで減っています。
また、建設就業者数は60歳以上が全体の25.7%を占める一方、29歳以下は約10%と高齢化が止まらず、10年後には60歳上の技能労働者の大半が引退すると見込まれており、技能者の高齢化に伴う担い手不足はますます加速することが予見されています。
現在の建設業においては、人手不足と高齢化の解消、ベテラン技能者の持つ技術やノウハウの承継が最大の課題となっています。そのほかにも、昨今の世界的な社会情勢の変化や円安による建設資材・エネルギーの高騰などの課題があり、他方では賃上げや働き方改革による建設就業者の処遇改善が望まれています。
国土交通省はAIに関する研究報告のなかで、AIを活用する目的を次のように述べています。
【働き方改革の実現】
1.賃金の引き上げを施工状況に即した適切な歩掛を用いた積算により促進
2.週休2日の確保を適切な工期設定により実現【2025年度までに建設現場の2割の生産性向上の実現】
1.技能者の育成促進を習熟すべき操作要素の抽出により実現
2.維持管理業務の高度化・効率化を構造物の3次元モデルの活用により促進【生産性向上に不可欠な民間投資を誘発】
1.民間の現場カイゼン投資をICT建機データが誰でも使える環境の創出により誘発
2.労働生産性向上の民間投資を生産性の高い会社の取組みを評価することにより誘発
引用:国土交通省「AIを活用した建設生産システムの高度化に関する研究」
一方で、大手ゼネコンなど民間企業でのAI活用は、現場作業や社内業務の合理化によるコストダウンと企業価値の向上、競争力の強化などを目的としています。官民ともに建設産業でAIを利用する主な目的は、業界特有の課題を解決し、生産性を高めて建設を魅力的な産業に変革すること、投資を呼び込み市場を活性化することにあるといえます。
AIを活用することによって建設現場はどのように変わるのでしょうか。2022年に国土交通省が発表した「第5期国土交通省技術基本計画の概要」には次のような将来像が示されています。
など
AIを最大限活用することで人手による現場作業はほとんどなくなり、オフィスや詰所に常駐しながらAIがおこなう作業を監督するのが人間の仕事になると予想されています。
次に、現在の建設業界におけるAIの活用方法や実際の事例をご紹介します。
ビルや家屋など建物の設計には、外観をデザインする「意匠設計」と建造物として十分な強度を持たせるための「構造設計」があります。高層ビルなど建造物が大型化するほど、構造設計は複雑になり、形状や面積などのプラン変更が生じる回数が増え、設計者の負担は大きくなりがちです。
AIによる構造検討では、建物の寸法や形状を入力すると、AIがデータベースからプロジェクトに合致する構造データを抽出して3Dモデルを生成してくれます。鉄骨など部材の配置だけでなく、部材の断面まで表示できるので、デザイン変更にもスピーディーに対応することができ、設計者の負担を大幅に軽減することが可能です。
ドローンが現場を空撮し、現場のどこに資材置き場があり、配置されているかをAIが把握し、機材や資材の管理支援をおこないます。
あらかじめ機材や資材の画像をAIに学習させておき、実際にドローンが現場を撮影した画像と飛行記録から、機材や資材の位置と数量を判別し、現場のイメージ画像上に3Dで描画表示します。また、個別管理が必要な建設機械などの上に識別用の目印を取り付けておくことで、法定点検のスケジュールを管理することも可能です。
建設業界では、生成AIを利用して業務の効率化や生産性の向上に役立てる活用方法が増えており、現場にカメラやセンサーなどを配置して異常発生時にAIが知らせてくれるサービスも提供されています。
これらのサービスでは、クラウド上にアップロードされた現場の配置図や異常発生時のマニュアルをもとに、異常の発生場所や対処法なども知らせてくれるため、省人化と同時に現場の安全性を高めることに寄与します。
ほかにも、大手ゼネコン社内のイントラネットでのみ利用できる生成AIなどがあり、社内の情報共有や業務の効率化に利用されている事例もあります。
AIが得意とする一般的な利用例として、自動運転、パターン認識・解析、文書作成などがあり、これらを建設現場で活用する場合には他の技術との連携が欠かせません。以下にAIを活用した建設に必要な関連技術をご紹介します。
BIMとは、調査・設計の段階から施工管理やメンテナンス、補修に至るまで建築構造物を実物と同じ形状で3次元画像化する技術です。この技術を道路やダム、橋など広域のインフラまで拡張したものをCIMと呼びます。建設の計画から維持管理まで、すべての関係者が3次元イメージで情報を共有することで、ミスを減らして工期を短縮、安全性と生産性を向上させます。
「モノのインターネット」と呼ばれるIoTは、非常に小さなセンサー類から家電製品、自動車、住宅やビルなど大きな建物まで、さまざまな「モノ」がインターネットを通じて情報を交換する通信技術です。建設現場ではセンサーや照明、カメラなどをIoTで接続し、建設現場の安全管理や作業状況のリアルタイムモニターなどに応用でき、管理コストや保全費の削減に役立ちます。
ドローンは空撮による建設用地の調査や測量、施工管理、高所や危険箇所での点検作業から資材運搬まで、今や建設現場に欠くことのできない技術となっています。特に大規模造成地の測量では、ドローンを使用した3次元測量により人件費の大幅な削減が期待できます。測量データはデジタルのため3D画像化が容易に自動生成できるメリットもあります。
さまざまな産業で普及が進むロボットですが、建設現場でもクレーンなど建設機械の遠隔操作や高所作業ロボット、自動搬送やパワーアシストスーツなどさまざまなロボットが導入され始めています。作業を自動でおこなう自律ロボットの導入が進むことで、建設業界最大の課題である人手不足の解消と女性技能者や若年技能者の入職につながるものと期待されています。
「第5期国土交通省技術基本計画の概要」では近未来の建設現場として、完全に無人化された建設機械やロボット、ドローンなどが現場作業をおこない、人間は屋内にいてモニターを見ながら遠隔操作や監視をしている様子が描かれています。
AIの普及が進むにつれて人手による作業は減っていきますが、人間のように「意志」を持ったAIはまだなく、新しい方法を生み出したり、工夫や改善を加えたりするのは人間にしかできない役割です。AIの活用により人の仕事が減ることはあっても、なくなることはないでしょう。
現在のAIはパターンを認識して答えを推論する「機械学習」と呼ばれる技術に基づいており、AIの参照元データやAIの出力結果が常に正しいとは限りません。裏を返せば、正しい判断や答えを導き出すには正確なデータの参照や入力が大前提となります。リアルタイムで環境が変化する建設現場では、時として経験に基づく人間の判断がAIに優る場合もあります。
また、機械であるAIには故障のリスクがつきものです。システムの冗長化(二重化)、故障に備えた人による作業や機器の操作方法の把握、AIに代わる管理者の確保、トラブル発生時のマニュアルなどの備えと、トラブル対応にあたる専門家などが必要です。さらに、AIやIT機器の故障により事故や災害が発生した場合に、誰がどのようにして責任を取るのかといった万一の事態に備えた対応方法なども決めておく必要があります。
AIは決して万能ではなく、AIに起因するリスクの責任はすべて人間にあります。とりわけ特に、生命の危険が潜む建設現場でAIを活用する際は、トラブルが発生した場合の備えをしっかりとしておくことが最大の注意点といえるでしょう。
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