少子高齢化により、日本の生産労働者人口が減少の一途を辿っています。なかでも、建設業は高齢化が進み、若手入職者が減少しているため、深刻な人手不足が課題となっています。ここでは、建設業における人手不足の原因や解消方法について解説します。
この記事はこんな読者におすすめ
建設業の人手不足の原因はさまざまです。ここでは主な原因として5つを挙げ、それぞれ詳しく解説します。
建設業の人手不足の大きな原因のひとつが、労働者の高齢化です。国土交通省によると、建設業就業者数は1997年の685万人から2022年は479万人に減少しており、55歳以上が35.9%、29歳以下は11.7%と高齢化が進んでいることがわかります。技能者のおよそ4分の1は60歳以上。今後10年以内にその大半が引退することを考えると、建設業を支える若手の確保は緊急の課題です。
若者の新規雇用が進まない要因のひとつとして考えられるのが、建設業に対するイメージの悪さです。具体的には、労働に見合った収入が得られないことや雇用条件の悪さ、そして3K(きつい・危険・きたない)をイメージする業種であるため、体力的に自信がないと務まらないという印象が蔓延しています。その結果、若者の新規雇用が進まず、労働者の高齢化に拍車がかかっています。
建設業の労働者が減少しているのに対し、ニーズは拡大傾向にあります。例えば、高度成長期やバブル期に建てられた建物が老朽化し、維持や再建の需要が増えているほか、建物の災害対策のニーズも加速しています。
建設経済研究所と経済調査会が1月に発表した建設投資予測の最新推計によると、2024 年度は 72兆4,100億円で前年度と同水準(0.7%増)が見込まれています。
建設業のニーズの高まる中で人手は不足しています。
国土交通省が発表した「建設労働需給調査(2023年11月調査)」によると、6職種(土木型わく工・建設型わく工・左官・とび工・土木鉄筋工・建設鉄筋工)で2.3%、6職種に電工・配管工を加えた8職種で1.8%が人手不足となっています。建設の需要が高まると、人手不足に拍車がかかり、1人当たりの労働者にかかる負担は増えます。
生産性の低さも人手不足にかかわっています。
建設業は他の製造業と比べても、年間の労働時間が長く、出勤日数が多い傾向にあります。長時間労働は労働者のパフォーマンスを低下させ、生産性を下げる原因です。長時間労働が続く環境には人材が集まりにくく、今いる人材の退職にもつながります。
また、建設業のデジタル化の遅れも生産性に影響します。建設業の事務作業は多岐にわたり、契約書や工程表や見積書の作成や、報告書や日報の記入などアナログで処理している事業所も一定数存在します。手作業の業務が多ければ生産性は低くなり、長時間労働につながるため、結果的に人手不足に繋がります。
建設業に対する人材派遣の規制も、少なからず人手不足に影響しています。労働者派遣法4条第1項では、建設労働者の安全確保と雇用の安定を守るために、建設業務の派遣は認めていません。
また、職業安定法32条では、建設業務に就く求職者を紹介することを禁止しています。具体的には「土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊若しくは解体の作業又はこれらの作業の準備の作業に係る業務」の派遣は認めないことが示されています。(現場事務所での事務作業やCADやBIM・CIMオペレーター、施工管理業務は派遣可能です。)
そのため、技能労働者を雇いたくても派遣を利用できず、求人広告やハローワークなどのみに頼ることになり、人手不足につながります。
今なお続く円安は、建設現場で働く外国人労働者に影響をもたらす可能性があります。円をドルに換算すると、日本の賃金は著しく低くなり、アジア新興国との賃金格差が縮まっています。本国に送金できる金額が減るのであれば、わざわざ日本に来て働く理由が薄れ、より効率よく稼げる他国で働くことを考えるようになるかもしれません。そのため日本の建設業で働く外国人労働者不足が進み、建設業の人手不足がさらに深刻化する恐れがあります。
深刻化する建設現場の人手不足を解消するためには、どのような手段があるのでしょうか。ここでは業務効率化と労働者の待遇改善の観点から考えてみましょう。
建設業の人手不足を解消するためには、労働者が無理なく仕事を進められるように、「業務の効率化」を図ることが重要です。
建設業では、2024年4月から、罰則付きの時間外労働の上限規制が適用されています。建設業はもともと長時間労働によって工事に対応してきた経緯があり、4月からの時間外労働の上限規制は、人手不足に拍車をかける可能性があります。決められた時間内に業務を終わらせながら、売上を獲得するためには、いかに少ないリソースを活用し業務を効率化できるかが鍵になります。
人手不足の現状のなかで、業務効率化を図るために必要になるのが、「業務の見直し」と「業務のデジタル化(ITツールの活用)」です。
業務全体のプロセスの見直しをすることは、非効率な部分を見つける重要な工程です。業務フローに無理や無駄がないか、重複している作業はないか、どこに時間がかかっているのかなど、現場の作業員にヒアリングをしながら確認します。業務フローを統一化するなどして、業務効率の改善を目指します。
業務効率化の実現のためには、業務のデジタル化やITツールの活用が有効です。建設業は現場作業だけでなく、工事管理や設計、営業などの多様な業務があります。情報の共有や担当者同士のやり取りも含めて、アナログで作業をしていると時間がかかるうえ、ミスが生じやすくなります。そこで、情報のデジタル化やITツールを活用することで、次のようなメリットが期待できます。
アナログだった情報共有の手段をシステム化し、クラウドやチャットツールを活用することで、最新の情報をスムーズに共有できるようになります。建材確保の状況や工期の遅れなど、緊急性の高い内容もリアルタイムで共有できます。担当者が現場にいなくても、タブレット端末などで、最新の情報を確認でき、迅速な対応が可能です。
ITツールを活用することで、業務時間の短縮が期待できます。例えば、クラウドERPシステムを導入することで、見積管理や受注原価管理などを一元管理できます。また、ウェアラブルカメラを作業服に装着して現場状況を撮影すれば、別の現場にいる作業員にも映像や音声を共有でき、現場に出向く時間やコストを削減できます。出勤管理やスケジュール管理、日報報告など、これまで手作業でおこなっていたことも、ITツールを利用すれば短時間で済み、時間外労働を減らせるでしょう。
図面や工程管理表などの資料をデジタル化することで、紙に印刷して資料をまとめる手間や破損・紛失のリスクを減らすことができます。資料に修正が生じた場合は、リアルタイムで更新できるのもメリットです。システムの検索機能を使えば、必要な資料をすぐに探すことも可能で管理が楽になるうえ、紙や印刷代などのコスト削減にもつながります。
建設現場にドローンやロボットなどを活用することで建設作業の効率化が可能になります。また、建設業向けのITツールを活用することで、最新の図面の共有や担当者とのコミュニケーションがスムーズになり、時間的なゆとりが生まれて生産性が向上します。生産性の向上は、労働時間の短縮につながり、従業員の労働の負担軽減も実現できるでしょう。
人手不足を解消するためには、技能労働者の待遇改善が不可欠です。具体的には、長時間労働の是正や、給与アップ・社会保険加入の徹底などが挙げられます。国土交通省による建設業界の働き方の課題解決を目指すプログラム「建設業働き方改革加速化プログラム」では、次のような働き方改革を強化する施策がまとめられています。
長時間労働の是正のための施策のひとつとして挙げられるのが、「週休2日制の導入」です。建設業では週休2日制の導入が遅れています。国道交通省の調査によると、週休2日以上を実現している企業は全体で8.6%(公共工事18.1%、民間工事5.0%)となっており、週休の平均日数が1 日以下のところもあります。国土交通省は2024年4月からの時間外労働規制の適用を踏まえ、公共工事から計画的に週休2日を推進するとしています。
国土交通省の調査によると、工期日数が不足している現場は少なくありません。工期に余裕がないと、作業員の早出や時間外労働、休日出勤が増え、長時間労働につながります。降雨・降雪日や台風などの自然要因などを考慮して不測の事態にも対応できるように、受発注者間で協議しながら適正な工期を設定する必要があります。必要に応じて適切に工期の変更を検討することも大切です。
技能や経験にふさわしい処遇や給与が実現できるような施策も重要です。国土交通省は建設業者に「建設キャリアアップシステム」への加入を推進しています。「建設キャリアアップシステム」とは、建設従事者の情報を登録するシステムで、作業員の能力を客観的に評価することができ、技能や経験に応じた処遇や給与の実現に役立ちます。作業員の処遇を改善し、働きやすい環境を整えることで満足度が上がれば、離職率の低減や入職希望者の増加にもつながるでしょう。
国土交通省では、建設業の社会保険への加入をミニマムスタンダードにする取り組みを推進しています。
2020年10月の建設業法改正により、建設業において社会保険の加入が実質義務化され、建設業許可(建設業者が500万円以上の工事を請け負う場合に必要)の取得にも社会保険加入が要件のひとつとなっています。国土交通省および中央建設業審議会は、社会保険未加入の企業に建設業の許可・更新を認めないとしています。また、発注者には、工事施工の依頼は、社会保険加入業者のみ(下請けも含む)に限定することを求めています。
Buildeeの導入をご検討中の方へ
お申込後すぐ視聴できる!Webセミナー開催中!
目次