SDGsとは、“持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)”の略で、2030年までに持続可能でより良い世界を目指す国際目標指針のことです。
建設業は、建物や社会資本の整備・維持管理の担い手として、「安全安心な社会」「持続可能な社会」「誰一人取り残さない社会」を実現すべく、SDGsの観点から様々な取り組みを進めています。
特に、建設業を今後も持続可能なものにするためには、労働環境の整備や環境問題への対策が急務になっています。この記事では、建設業界におけるSDGsの取り組み内容やメリット、実際のSDGs事例について詳しく解説します。
この記事はこんな読者におすすめ
目次
持続可能でより良い世界を実現するための国際目標指針であるSDGs。まずは、建設業との関わりを確認しながら、建設業におけるSDGsについて具体的にみていきましょう。
建設業は社会インフラの整備、防災、環境問題およびエネルギーの問題など、人々の豊かな生活を支える業界であり、SDGsの観点からも多岐にわたる局面に関与しています。
SDGsと建設業の関連は、主に「人・社会」と「環境」への対応が中心になっています。それぞれについて詳細をみていきます。
SDGsの17のゴールのうち、建設の担い手として建設業が積極的に取り組んでいるゴールのひとつが「ゴール8:働きがいも経済成長も」です。
これまでの建設業は、いわゆる3K(「きつい」「汚い」「危険」)の仕事といわれ、若者離れや業界全体の人手不足の課題を抱えてきました。しかし、社会インフラの重要な担い手である建設業で働く人ひとりひとりが、やりがいや誇りをもって、これからも働き続けることができるよう、積極的な労働環境の見直しがおこなわれています。
たとえば、建設業界に長年定着した3Kのイメージを払拭し、SDGsにおける「ゴール8:働きがいも経済成長も」の目標達成を加速できるよう、平成27年には当時の国交省大臣と日本経団連が「給料」「休暇」「希望」の新3Kを提唱しています。これを受けて日本建設業連合会は、新3Kに「かっこいい」を加えた新4Kを提唱し、ロボット技術やICT、デジタル化を活用したスマートな事業へと進化を続けるなど官民一体での取り組みをおこなっています。労働者の労働条件については、2024年4月から、「働き方改革関連法」が適用され、時間外労働の制限、賃金アップ、週休二日制の普及などの取り組みが進行しています。
そのほか、すべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を推進する「ゴール3:すべての人に健康と福祉を」の目標を達成するため、建設業界では、施工や解体に伴う土壌や大気の汚染防止、施工に従事する人々の安全を最優先とした安全対策の強化に取り組んでいます。
さらに、「ゴール5:ジェンダー平等を実現しよう」の目標に対しては、建設業においても性別にかかわらず、育児や介護休暇の取得をしやすくしたり、女性の役員比率を増加させたりするなどの取り組みが推進されています。
このように、SDGsの観点から、建設事業に従事する全ての者が、安全かつ平等な労働環境のもとでやりがいを持って業務を継続できるよう、業界全体が一丸となって取り組んでいます。
続いてSDGsと建設業の関連の大きな柱である「環境」について見ていきましょう。環境への具体的な取り組みは、4つの柱が基本となります。
2050年カーボンニュートラルの実現をみすえて、CO2排出量の少ない工法や建材の採用が推奨されています。
●SDGsで目指すゴール
「ゴール7:エネルギーをみんなにそしてクリーンに」、「ゴール9:産業と技術革新の基盤をつくろう」、「ゴール11:住み続けられるまちづくりを」
木材やコンクリート、金属、エネルギーなど限りある資源を有効活用するため、3R活動(リデュース、リユース、リサイクル)を積極的に推進しています。
●SDGsで目指すゴール
「ゴール9:産業と技術革新の基盤をつくろう」、「ゴール12:つくる責任つかう責任」、「ゴール13:気象変動に具体的な対策を」、「ゴール15:陸の豊かさも守ろう」
国内での消失が危惧される地域固有の生物の生育環境の調査や環境保全に関する研究事業をおこなう企業が増えています。
●SDGsで目指すゴール
「ゴール14:海の豊かさを守ろう」、「ゴール15:陸の豊かさも守ろう」
建設工事の際の排水や廃棄物、粉塵などから、大気・水・土壌などの環境を守るため、土壌汚染・水質汚染を防止する工法や建材の開発などに取り組んでいます。
●SDGsで目指すゴール
「ゴール6:安全な水とトイレを世界中に」、「ゴール11:住み続けられるまちづくりを」、「ゴール14:海の豊かさを守ろう」
多くの社会インフラの構築・維持を担う建設工事は、少なからず周辺環境に影響を及ぼすため、環境整備の課題と切り離すことはできません。今後も持続可能な社会を構築し、豊かな生活を維持するためには、CO2排出量の抑制や資源循環の取組など、責任あるものづくりを推進し、環境保全に努めることが重要です。
建設会社にとって、SDGsの目標に取り組むことは義務ではありません。しかし、社会インフラ構築の担い手である建設業者が、持続可能な未来を築く社会的責任を果たすため、SDGsの課題に向き合うことによって、多岐にわたるメリットが期待されます。
SDGsに取り組むことによって得られるメリットについて詳しく説明します。
建設会社がSDGsに取り組むことで、従業員からのイメージ向上につながります。なぜなら、SDGsに取り組んでいる企業は、既成概念や慣習にとらわれることなく、社会の新しいニーズや環境問題に対する意識が高く、自ら変わろうとする姿勢が従業員に伝わるからです。
労働環境の改善やデジタル化の導入、リモートワークの採用などを積極的に推進することで、労働者の負担を軽減できます。その結果、離職率の低下が期待され、若手を中心とした優秀な人材も集まりやすくなることが見込まれます。
SDGsへの取り組みは、企業イメージやブランディングの向上につながるため、顧客やビジネスパートナー、投資家などからの評価が期待できます。一般的な実益を追求するだけでなく、将来を見据えた持続可能な事業を展開しようとする姿勢や、長年にわたる社会貢献の実績は、周囲からのより一層の信頼の獲得につながります。同じくSDGsに取り組む企業とのつながりや投資家との出会いによって、新たなビジネスや資金獲得のチャンスをつかむこともあります。
たとえば、ESG投資の観点からも、企業がSDGsに取り組むことで、新たな投資を得る機会が増えます。ESGとは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス;企業統治)の略で、企業が環境や社会に配慮した事業をおこなっているかどうか、適切なガバナンスの下で経営しているかを示す指標のことです。これまでの投資では、投資先を選定する際、投資家は企業の利益などのキャッシュフローなどの財務情報を元に判断してきました。それに対し、ESG投資では、投資家が企業のSDGsの取組内容を考慮し、中長期的な成長を期待して投資先を決定します。ESG投資は、2006年に国連が機関投資家に対し、SDGsの取り組みを考慮して投資先を選定するように提唱した「責任投資原則」によって、世界に広く周知され、現在日本においてもESG投資が広がっています。
また、多くの自治体では、SDGsに取り組む企業に対し、公共事業における入札加点の制度が設けられています。入札に先駆けて、県や市が運営する「SDGs登録制度」や「SDGs認証」に申請し、登録や認証取得が完了すれば、入札加点を受けることができ、受注獲得のチャンスが増えます。
労働環境の見直しや環境意識の高まりなど、変化する社会ニーズのなかで、周囲の信頼を獲得していくためには、SDGsへの取り組みによるイメージ向上が有効です。
ここで建設業界におけるSDGs事例をいくつかみてみましょう。
大成建設は、建設業が抱える人手不足や長時間労働などの課題を解決するため、遠隔操作と自動運転が可能な建設機械「T-iROBOシリーズ」を開発し、ブルドーザーなどの建設機械の自動運転と、複数の建設機械による協調運転技術を運用しています。
さらに、現場で働く社員のために、リフレッシュに利用できる屋外型ワークプレイスなどを設置し、社員の健康管理や多様な働き方を支援する取り組みもおこなっています。これは、SDGsにおける「ゴール8:働きがいも経済成長も」、「ゴール9:産業と技術革新の基盤を作ろう」、「ゴール17:パートナーシップで目標を達成しよう」の目標達成に貢献する取り組みといえます。
山岳トンネル工事での危険作業を、遠隔操作でおこなう専用機「ロボルタス」を開発しています。これにより、ロックボルト打設作業に必要な、削孔、モルタル注入、ロック、ボルト挿入を無人でおこないます。同じく山岳トンネル内の鋼製支保工のひずみを、遠隔で計測できる「ハカルーター」を開発し、運用することで作業の省人化と安全性の向上に取り組んでいます。これは、「ゴール8:働きがいも経済成長も」、「ゴール9:産業と技術革新の基盤をつくろう」、「ゴール11:住み続けられるまちづくりを」の目標達成に貢献する取り組みといえます。
現場の作業員のヘルメットにセンサデバイスを装着し、作業員の⽣体情報や作業環境(温湿度など)をリアルタイムに監視し、計測した数値をクラウド上で管理しています。異常を検知した場合は作業者安全モニタリングシステムがアラートを送信するなど、現場にIoTを積極的に導入することで、作業員の安全を守っています。これは、「ゴール8:働きがいも経済成長も」、の目標達成に貢献する取り組みといえます。
多様な人々の健やかで働きがいのある環境を実現し、ダイバーシティ(多様性)を促進するため、性別、国籍、年齢、障がいの有無などに関わらず、誰もが活躍できる職場環境を整備しています。特に女性活躍の促進・職域拡大に取り組んでおり、現場での女性活躍を促進する環境づくりに力を入れています。また、子どもや介護が必要な家族を持つ従業員のために、在宅勤務や短時間フレックスタイム制度を導入し、全社員を対象に時間単位年次有給休暇を導入しています。これにより、フレキシブルな労働環境を提供しています。この取り組みは、「ゴール8:働きがいも経済成長も」、「ゴール10:人や国の不平等をなくそう」の目標達成に貢献するものです。
Buildeeの導入をご検討中の方へ
お申込後すぐ視聴できる!Webセミナー開催中!
目次