労働環境の改善を目指して「働き方改革」が提唱されており、建設業界もその例外ではありません。しかしながら、建設業界は多くの問題を抱えており、今後の改善が急務とされています。
どのような問題があり、どのような改善方法が求められるのでしょうか。ここでは、建設業界の働き方改革が無理といわれている理由や改善方法について解説します。
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目次
まずは建設業界における労働環境の現状についてみていきましょう。
2024年問題とは、2024年4月から施行された「働き方改革関連法」によって生じる問題の総称です。
働き方改革関連法の正式名称は「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」で、時間外労働の規制、有給休暇の確実な取得など労働環境の改善を目的に2019年4月1日より施行されています。すでに多くの業界で施行されていますが、建設業界では、5年の猶予を経て2024年4月から本格的に施行となりました。
具体的な内容は以下のとおりです。
上記の上限規則を守らなければ、労働基準法第119条違反により「6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金」に処されます。
しかし建設業界では5年の猶予があったにもかかわらず、多くの企業が基準を満たせる環境になっていません。
建設業界では慢性的な人手不足が問題となっています。国土交通省の「最近の建設業を巡る状況について」によると、2021年の建設業就業者数は485万人で、ピーク時の1997年の685万人と比べて約30%減少しています。さらに年齢別にみると、2021年の55歳以上の割合は35.5%、29歳以下が12%と、建設業界の高齢化が進行していることがわかります。
現状に加えて高齢化が進行すると、将来的な人手不足の深刻化は避けられません。建設業界では若手の人員を確保し、技術を継承していくことが早急に求められているのです。
働き方改革が進められていますが、「建設業では無理だ」という声があるのも事実です。それには以下の理由が挙げられます。
建設業では短い工期で契約することが常態化しています。
まず発注者はビジネスを早く開始して収益向上を望むために早期完成を求め、元請けは多少無理があっても、その条件を呑むことで受注することがあります。受注した業務を元請けから下請けに発注する際にも、下請けに無理な工期を設定することが少なくありません。
「適正な工期設定等のためのガイドライン」は設定されているものの、あくまで要請レベルに留まっており、下請けは無理な工期を受け入れるしかないのが現状です。
今後は法的な措置を設けるような対策がなされるかもしれませんが、現状では大きな変化を見込めないでしょう。このような背景も、働き方改革が無理だといわれる理由の一つかもしれません。
労働時間に上限が設けられたことで、企業はその分人員を増やさなければなりません。しかし、建設業界は「きつい・汚い・危険」いわゆる3Kといったネガティブなイメージが強く、若手の人員確保が困難な現状です。
厚生労働省の一般職業紹介状況によると、2023年11月時点の有効求人倍率は、全産業の1.2倍に対し、建設業が5.57倍とされています。有効求人倍率の値が高いほど求人が多いことを指しており、いいかえるとそれだけ人材不足であるといえます。つまり建設業は全産業に比べて人材確保が困難であるため、それを補うために少ない人員による長時間労働が一般化しているといえます。このように人員増加が必要にもかかわらず、困難な状況であることも、働き方改革が無理だと思われる要因の一つになっています。
国土交通省の「建設業における賃金等の状況について」によると、製造業の賃金ピークが50~54歳で年収550万円を超えるのに対し、建設業の賃金ピークである45~49歳でも年収500万円に届かないとされています。また建設業界は給与水準が低いことに加えて、働き方改革で労働時間が減れば、残業代や休日手当などで手取り額をカバーしていた方は、大幅に給料が減ってしまうかもしれません。
さらに、建設業界では勤務日数によって給料が設定される「日給月給制」を採用している企業もあります。働き方改革によって出勤日数が減少すれば、給料が減少してしまうことは避けられません。給料の問題は離職に直結し、人員不足をさらに深刻化させる恐れがあります。
働き方改革を進めるためには今ある課題を改善していかなければなりません。そのため、国土交通省は「建設業働き方改革加速化プログラム」を定めており具体的な改善方法を打ち出しています。主な取り組みは以下のとおりです。
働き方改革を実現するために、長時間労働の是正は重要な課題に挙げられます。そのため掲げられているのが「週休2日制の導入」「適正な工期設定の推進」です。
まずは公共工事で週休2日制を浸透化させることで、民間工事にも普及しやすい流れを構築します。達成した企業に対しては適切な評価を与えるなど、週休2日制に積極的に取り組む企業の増加を目指していきます。
適切な工期設定にすることで、長時間労働や技能労働者の負担軽減を目指していきます。具体的には国土交通省が公開している「工期設定支援システム」の普及や「適正な工期設定等のためのガイドライン」の見直しによる発受注者への協力促進です。長時間労働が起こらない仕組みを整えることで適切な工期設定を支援していきます。
給与・社会保険の見直しも重要な改善方法です。具体的には労働者の技能や経験に見合った処遇の実現、社会保険加入の推進が挙げられます。
これまでは建設業界では、労働者一人ひとりの技能や経験が評価されにくく、能力に見合った処遇が得られない状況でした。それを改善するため、能力評価制度の策定や「建設キャリアアップシステム(CCUS)」の普及を目指していきます。
CCUSは、労働者の能力や経験、社会保険の加入状況などをシステム化して登録・蓄積する仕組みです。国土交通省が普及に取り組んでおり、一人ひとりの情報を蓄積・見える化して、適切な評価と処遇につなげることを目的としています。今後普及していけば、技能労働者の処遇改善にもつながることでしょう。
建設業界では社会保険に加入していない企業も少なくありません。今後は、建設業界全体の社会保険加入推進を目指していきます。
主な改善方法として、社会保険未加入の企業には建設業が更新できない仕組み作りや発注者には社会保険加入業者に限定して施工会社を選ぶよう要請するといったことが挙げられます。
生産性の向上を実現するためにはICTの活用が有効です。ICTとは「情報通信技術」のことで、活用により作業の効率化を図り生産性向上を目指していきます。
改善策にはITツールの活用、技術者配置要件の合理化が挙げられます。
最先端のIT技術を導入することで作業効率化を図ります。
具体的には、スマホやタブレットを用いての図面確認、映像システムを用いた遠隔での業務指示などです。また、ドローンによる3D測量、VRによる危険予知訓練、3Dプリンターによる建築物・建材作成などもIT技術により可能になっています。
これらITツールの活用により、これまでは現場を行き来していた作業も映像のみで確認できたり、紙ベースだったものがデータ化されたりと、業務の効率化向上が期待できるでしょう。
技術者配置要件の合理化とは、現場技術者の配置に関する規制を緩和し、効率的な人材活用を図ることを目的とした取り組みです。
具体的には1人の監理技術者が複数の工事現場を兼務することや、下請けの上位企業が下位企業主任技術者の業務範囲を賄うことを認めるといった内容が挙げられます。
今後減少が予想される技術者を適切に活用するため、限られた人材や資機材で現場を効率的に回す仕組みの構築が重要です。
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