人手不足が大きな社会問題になっている建設業界では、とりわけ若者離れの問題が深刻化しています。建設産業の将来のためには、「現場力」を維持する若手人材の確保が急務です。
今回は、建設業における若者離れの現況とその原因、そして若者離れを防ぐための対策について詳しく解説します。
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建設業では若者離れが加速しています。建設業の若者離れの現況について、国土交通省が公表している「最近の建設業を巡る状況について」という資料を元に詳しくみていきましょう。
同資料によると、建設業の若年層・高年齢層の割合は1997年(平成9年)までは、55歳以上が24.1%、29歳以下が22.0%と同水準であったのが、2022年(令和4年)には55歳以上が35.9%、29歳以下が11.7%になっています。
この若者離れの現状は、全産業と比較しても顕著です。全産業における若年層・高年齢層の割合は、55歳以上が31.5%、29歳以下は16.4%になっており、建設業ほどの差はみられません。このことから、建設業は全産業の平均と比較して、特に若者離れが深刻化していることがわかります。
建設業で若者離れが進んだ背景には、「仕事がきつそう」「休みが取れない」など、建設業に対するマイナスのイメージがあります。若者離れが起きる理由について具体的にみていきましょう。
建設業では、主任技術者など施工管理を行う元請技術者の10割近く、下請技術者のおよそ8割が月給制になっているのに対し、現場で作業を行う技能労働者に関しては、日給制で労働している人の割合が6割を超えており、日給制が定着しています。
日給制では、「日給×出勤日」をベースに、賃金が発生するため、雨や雪などの気象条件によって、予定されていた作業が延期になり、その日の出勤がなくなるケースもよくあります。企業によっては、休業手当がつくこともありますが、手当の代わりに既定の休日と振り替えるなどの対応をする場合もあります。
いずれにせよ、天候によってその日の勤務や賃金に影響が出るため、雇用が安定しづらく、ワークライフバランスを重視したいと考える若者から敬遠される要因のひとつになっています。
建設業は他業種に比べて労働時間が長いことも若者離れの理由のひとつです。国土交通省のレポート「建設業の働き方改革」によると、令和4年(2022年)時点において、建設業技能労働者の年間の出勤日数が全産業に比して12日多く、年間の総実労働時間についても全産業に比して68時間長いことが報告されており、長時間労働が常態化していました。休日の取得率についても、建設業では4週8休、つまり週休2日以上を取得していた人は全体の約1割程度にとどまっており、4週6休程度が大半を占めていました。
2024年4月1日に「働き方改革関連法(正式名称は「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案」)」が建設業にも適用された現在では、時間外労働の上限規制が設けられたことにより、長時間労働をめぐる問題は解決されつつあります。しかしながら、2024年4月まで長年にわたって定着した「労働時間が長い」というイメージが、若者を建設業から遠ざけてきました。
建設業界は、他業種と比較して賃金が安い傾向があることも、若者離れの一因です。厚生労働省が公表している「令和5年賃金構造基本統計調査」のデータによると、令和5年の国内すべての給与所得者の賃金の平均は31万8300円/月でした。同調査では、国内の給与所得者を16の産業に分類し、各産業別の平均賃金を比較しています。その結果、賃金の平均が高いものから「電気・ガス・熱供給・水道業」の42万1300円/月、次に「学術研究,専門・技術サービス業」が40万3800円/月、「金融業,保険業」が40万3100円/月、「鉱業,採石業,砂利採取業」が36万9600/月とつづき、「建設業」は全16業種中7位の35万3700円/月でした。建設業の賃金は、国内全体平均を上回るものの、業務に伴う肉体的負担や危険性、長時間労働を考えると「安い」と考える人もいます。
また、あくまでも平均賃金なので、ここには管理職や特殊技能を持つ技能労働者も含まれています。同調査の産業、年齢別の賃金の平均をみてみると、建設業では19歳未満が19万9000円/月、20~24歳が23万3500円/月、25~29歳が26万9500円/月になっており、最も平均賃金の高い55~59歳の43万2500円/月と比較すると、大きな差があり、若者層では賃金が特に安い傾向にあります。
若者離れを防止し、人材を確保するためには、建設業としてどのような対策を打てばよいのでしょうか。建設業が取り組むべき若者離れの対策について詳しくみていきましょう。
これまでの建設業には、いわゆる3K(「きつい」「汚い」「危険」)や「労働時間が長い」、「賃金が安い」といったネガティブイメージが定着し、若者離れや人手不足の大きな要因になっていました。若者離れを防ぐためには、それぞれの企業が主体性を持ってイメージアップを図ることが重要です。
例えば、働き方改革関連法に基づく労働環境改善や賃金・処遇の見直し、資格取得の支援制度の拡充など、若手の技能労働者がやりがいと誇りを持って働ける環境を整えることでワークライフバランスを重視する若者にアピールしていくことが大切です。
2024年4月1日に建設業に適用された「働き方改革関連法」に準じ、これまでの建設業に定着していた長時間労働を是正することが求められます。これまでの建設業には時間外労働時間に上限の規制はなく、法定労働時間を超過しても罰則はありませんでした。しかし2024年4月1日以降は、時間外労働時間は原則的に1か月当たり45時間以内、年間で360時間以内に定められ、これを超過すると罰則の対象になります(災害時などの緊急対応などを除く)。
そのため建設業では、長時間労働を是正し、若者が働きやすい環境を整える必要があります。例えば、業務効率化のために調査・測量から設計、施工、検査、維持管理・更新までの全プロセスにICT(情報通信技術)などを活用したり、ウェブ会議システム、設計ソフト、資材管理システムやアプリを導入したりするなどの仕組み作りが求められます。そうして業務効率化の成果を活かして、建設業も余裕のある工期設定を徹底し、週休2日制を基本とするなど若者にとって魅力ある労働環境を整える必要があります。
技能・経験にふさわしい賃金と処遇が実現するよう、技能労働者の能力評価制度を導入して、スキルや知識・技術などを見える化し、各自の能力評価の結果に基づき、賃金と処遇を見直す必要があります。これを解決するため、2019年4月から国土交通省の推進の下、「建設キャリアアップシステム(CCUS)」が導入されています。CCUSでは、登録した技能労働者に専用のカードが発行され、保有する資格や講習の受講履歴、現場の就業履歴などの情報を電子データとして蓄積することができます。CCUSではこれらの情報を元に、技能労働者ひとりひとりのスキルや経験を可視化して、これに応じた賃金や処遇の見直しに役立てることができます。CCUSを活用することで、年齢に関係なく、優れた技能労働者に対しては、手当を支給するなど、柔軟かつ適切な処遇改善が可能となり、若者のモチベーションアップが期待されます。
建設業界では、左官技能士やとび技能士、移動式クレーン運転や高所作業車運転技能、土木施工管理技術検定や電気工事士など、さまざまな建築技能・技術資格が存在しています。現場で求められるスキルの獲得や資格の取得を支援する制度を設けることで、向上心のある若者を集めることができます。
例えば、日本建設業連合会(日建連)では、中学校や高等学校、専門学校や大学などの在学中に技能や資格を取得した者を対象に、資格取得費用の一部をキャッシュバックする「建設スキルアップサポート制度」を導入しています。このような取組みは、若者が積極的にスキルアップ・資格取得に挑戦できる土壌を築き、将来を担う優秀な人材の確保につながります。
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