これまで人手不足・人材不足が指摘されてきた施工管理において、2024年4月から建設業に時間外労働の上限規制が適用されたことで、施工管理の人手不足は今後さらに拡大すると予測されています。その理由として、施工管理のみならず建設業全体の高齢化と若者世代の減少、恒常的な長時間労働が挙げられます。これらの課題を解決し、施工管理の人手不足解消につなげる取り組みについて解説します。
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2024年3月に人材紹介業大手のリクルートが発表した調査報告によると、施工管理の求人数は2016年を1とすると2023年は5.04倍まで伸長しており、背景には建設需要の高まりに対する建設就業者の減少があると分析しています。
しかし、国土交通省による2023年12月の「建設業(技術者制度)をとりまく現状」によれば、建設業就業者全体では2002年(618万人)から2022年(479万人)の20年間で約22%減少しているものの、施工管理などの建設技術者数はほぼ横ばいの状況が続いています。それでは、なぜ施工管理は人手不足とされているのでしょうか。
引用:国土交通省「建設業(技術者制度)をとりまく現状」
建設業における高卒・大卒の新規入職者数は2014年から4万人前後で推移しており、2020年以降は4.2〜4.3万人と微増傾向にあります。しかし、それ以上に建設業就業者の55歳以上の割合(高齢化)のスピードは著しく、2002年の24.8%から2022年の35.9%と大幅に増加しております。そのため建設業就業者における29歳以下の割合は2002年の19.1%から2022年の11.7%まで大幅に減少しており、構成比でみると建設現場で若者の就業者率が低い状況が生じています。
引用:一般社団法人日本建設業連合会「建設業デジタルハンドブック」
日本全体の若者人口が減少していく中で、若年労働力は各産業間の奪い合いとなっており、「労働時間が長い」「休みが少ない」「収入や待遇が不十分」など、建設業が抱える課題が若者不足を招いている主だった要因と推測されます。
建設業では若者の離職率の高さも人手不足の大きな要因です。2020年に行われた厚生労働省の調査によれば、建設業新卒者の3年以内離職率は高校卒で42.4%、大学卒で30.1%となっており、全産業の高校卒37%、大学卒32.3%と比較すると、建設業では特に若手建設技能者の担い手となる高卒の離職率の高さが目立ちます。
また、若年建設技能者における離職理由に関する調査では、雇用する企業の見解と離職者の離職理由に少なからず齟齬がみられました。
順位 |
企業側が挙げた主な離職理由 |
離職した技能者による離職理由 |
---|---|---|
1 |
作業がきつい |
雇用が不安定である |
2 |
若年技能労働者の職業意識が低い |
遠方の作業場が多い |
3 |
現場での人間関係が難しい |
休みが取りづらい |
4 |
労働に対して賃金が低い |
労働に対して賃金が低い |
5 |
休みが取りづらい |
作業に危険が伴う |
引用:国土交通省「建設業の働き方として目指していくべき方向性(参考資料)」
こうした企業側と若年労働者の仕事に対する価値観や意識の違いが、若者を定着させる適切な取り組みを困難にし、人手不足の要因の一つになっています。
2022年時点での建設技能者302万人の25.7%にあたる77.6万人が60歳以上で、そのうちの51.1万人を65歳以上が占めています。これらのベテラン技能者は大半が10年以内に引退すると見込まれ、現状のままでは近い将来さらなる人出不足となることが予想されます。
また、高齢化に伴い技能者の判断力や体力が衰えるため、危険作業・高所作業の制限や作業環境の整備など労働災害防止のための配慮事項が増え、施工管理の業務負担も増加します。2024年4月1日から建設業にも時間外労働の上限規制が適用されており、施工管理の負担増は人手不足に直結する原因となります。
国土交通省は2023年8月の「建設業における働き方改革」のなかで、建設業は全産業に比べて年間出勤日数で12日多く、労働時間で68時間長いと指摘しています。建設技術者における平均的な休日の取得状況は4週6休程度が38.5%と最も多く、4週5休程度が19.1%、4週4休以下も16.9%を占め、完全週休2日を確保できているのはわずか12.8%となっています。
また、2023年の厚生労働省の調査では、全産業における完全週休2日制を導入している企業は53.3%で、週休1日または1日半としている企業はわずか6.9%に過ぎず、建設業の労働時間がいかに長いかを物語っており、結果、人材の定着が困難になり、人材不足につながっているのです。
2014年に建設業の担い手の育成・確保を目的として「担い手三法」と呼ばれる改正法が施行されました。この三法に「働き方改革の推進」「生産性向上への取組」などを新たに盛り込んだのが「新・担い手三法」です。新・担い手三法の各項のうち「工期の適正化」と「技術者に関する規制の合理化」において、施工管理など建設技術者における人手不足対策の指針が示されています。
引用:国土交通省「新・担い手3法(品確法と建設業法・入契法の一体的改正)について」
新・担い手三法と関連して、監理技術者等の専任が不要となる請負金額の上限引き上げや、遠隔での施工管理(遠隔臨場)の導入等による兼任制度の新設など、施工管理の負担を軽減する法改正が行われてきました。その中で技術者の不足を補うとともに若手人材の育成につながるのが、2024年4月1日に施行された「技術検定制度の見直し」です。
これまで施工管理技術検定1級の受験資格は、一次・二次検定ともに大学の指定学科卒業後3年以上の実務経験が最短コースで、指定学科以外の高校卒では11.5年以上の実務経験が必要とされていました。これが1級一次検定の受験資格では卒業学歴や指定学科の有無を問わない「19歳以上」と改められ、二次検定の受験資格も「一次検定合格後5年の実務経験もしくは監理技術者補佐としての実務経験1年」に改められました。
また、技術検定2級の二次検定の受験資格には学歴に応じた一定の実務経験が必要でしたが、「2級一次検定合格後3年以上もしくは1級一次検定合格後1年以上の実務経験」に改められました。
他方、建設企業の中途採用にも条件の変化がみられます。施工管理の求人はこれまで経験者が中心でしたが、近年は未経験者を対象とする求人が急増しており、企業が中長期的な人材育成に注力し始めていることが窺がえます。
施工管理の根本的な人手不足を解消するには「週休2日制」と「長時間労働の是正」を実現しなければなりません。そのためには適正な工期の設定が必須となります。しかし、現状では発注者による「短すぎる工期」が少なくありません。
2023年12月に発表された国土交通省等による「入札契約の適正化の取組状況に関する調査」によると、公共工事における適正な工期設定に配慮している市区町村は56.5%に留まり、約半数が工期設定にあたり週休2日や年末年始などの休日を考慮していないのが現状です。
国土交通省では実施済みの「工期に関する基準」を2024年3月に改定、工期設定における発注者・受注者双方の責務を具体的に示すとともに、著しく短い工期での契約と判断された場合は行政が発注者に対して勧告を行い、これに従わない場合は公表することができるとしています。
引用:国土交通省「工期に関する基準」
施工管理の仕事は対人や対物の業務が多く、デジタル化しにくい面があることは否めません。しかし、遠隔臨場やテレワークの導入が可能となったことで、DXによる業務効率化の取り組みが進められるようになりました。
現在、施工管理業務には以下のようなデジタルツール・技術の適用が可能です。
元請の施工管理では積極的に進められているDXですが、下請では導入の遅れが目立ちます。しかし、各種補助金や助成金、税制優遇措置、低利融資など、資金調達の選択肢が増えていることから、今後は中小企業でもDXが進むものと予想されます。
施工管理の人手不足は時間外労働を助長し、さらなる人出不足を招く悪循環につながります。このように山積する課題を解消するには、若者の入職を促す「働き方改革」と「建設DX」という両輪による推進力が必要です。
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