少子高齢化による社会構造の変化に対応し、経済の発展を促進するため、さまざまな産業分野でDXが推進されています。建設業界でも施工をはじめとするデジタル技術の活用が進んでおり、DXの重要性が高まっています。
これからの建設業界がDXによってどのような変革を迎えるのか、建設DXをけん引する国内建設業大手5社による建設DXへの取り組み事例をご紹介します。
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DX(デジタル・トランスフォーメーションの略)とは、コンピュータや情報通信技術を駆使して経済の発展と社会課題の解決を目指す取り組みであり、経団連ではDXを以下のように定義しています。
「デジタル技術とデータの活用が進むことによって、社会・産業・生活のあり方が根本から革命的に変わること。 また、その革新に向けて産業・組織・個人が大転換を図ること。」
引用:日本経済団体連合会「Digital Transformation (DX)~価値の協創で未来をひらく~」
さらに、人手不足や処遇改善、資材の高騰など課題が山積する建設業のDXでは、デジタル技術による生産性の飛躍的な向上が求められます。ドローン測量、設計支援システム、ICT建機、建設ロボット、工程管理・業務効率化システムなど、測量から施工、保守点検まで建設のすべてのプロセスでDXが必要とされています。
日本の建設投資は1992年に約84兆円のピークを迎えて以来、縮小の一途を辿っていました。しかし2013年からは一転して拡大傾向にあり、2022年にはピーク時の8割程度にあたる約69兆円となる見込みです。一方で建設業の就業者数は1997年に685万人のピークを迎えた後は下降を続け、2022年は479万人となりピーク時から約3割減少しています。
建設業の人手不足が深刻さを増すなか、2024年4月からは罰則付きの労働時間上限規制が適用されたこともあり、DXによる省人化が実現しない場合は、多くの現場で「施工ができない」事態に至る可能性があります。また、技術継承の観点からもDXが注目されています。
建設業でDXが重要な理由のひとつに「働き方改革への対応」があります。働き方改革とは「少子高齢化による生産年齢人口の減少」に対応するため、個人のニーズに合わせて効率よく働くための取り組みです。そのために「労働時間法制の見直し」と「雇用形態に関わらない公正な待遇の確保」を中心とした措置が講じられました。
引用:厚生労働省「働き方改革」
働き方改革が推進される一方で、建設業の労働時間は全産業と比べて年間で90時間長く、出勤日数も12日多いのが現状です。また、建設業の平均的な休日数は「4週6休」以下が81.4%を占めており、他の産業では一般的となっている週休2日が実現できていない状況です。
引用:国土交通省「建設業を巡る現状と課題」
大手企業では2019年から、中小企業では2020年から罰則付き時間外労働規制がすでに適用されており、これまで猶予されてきた建設業にも2024年4月1日から適用されました。DXによる業務の効率化と省人化は、建設業における働き方改革を左右するほどの重要性を持っています。
建設業では高齢化の進行が速いため、「技術継承」を急がなければならないこともDXの重要性が高い理由のひとつです。ベテラン職人の技術をAIやロボットで再現する、あるいは人材育成の効率化にデジタルツールを活用することで、若手の人材不足を補い技術継承を短期間で効率よく進めることが可能となります。
実際にデジタル化で技術継承を進める建設企業では、以下のような取り組み事例があります。
技術を継承すべき若手の人材不足が解消されないまま、ベテラン職人の急速な高齢化が進んでいる現在、建設DXによる効率的な技術継承が急務となっています。
建設業界のなかでも早くからDXを推進してきたスーパーゼネコン5社は、現在の建設DXをけん引するリーダー的存在です。時代の先頭を走るDX先進企業が取り組む最新の事例をご紹介します。
鹿島建設では「事業DX」「建設DX」「業務DX」を掲げ、部門毎のDXを推進しています。
土木部門ではAIや5Gといった先端技術を盛り込んだ「重機の自動化・自律化」に注力しています。秋田県に建設中の成瀬ダムの堤体工事では、ダンプトラックによる材料の搬入、ブルドーザーによる地ならし、振動ローラーによる締固め作業がすべて無人で行われます。無人運転に加えて現場作業員もいないので、安全に最適なスピードで作業を進めることができます。
建築部門では建築物の3次元モデリング技術BIM(Building Information Modeling)をベースに、建築現場をデジタル空間に再現し、そこに作業現場の作業員や建設機械などを配置、リアルタイムで施工状況を把握できるシステム「3D K-Field」を開発しました。これはバーチャルとリアルを融合させた「デジタルツイン」という手法で、建設業で注目度の高い技術です。鹿島では建築だけでなく竣工後の管理ツールとしてもこのシステムを活用しています。
大林組は1979年に開設した電子計算センターを出発点として、早くから先駆的なデジタル化を推進してきました。大林組では生産基盤をBIMベースに移行する取り組みを進める一方で、先進テクノロジーの実用化にも取り組んでいます。
タブレット端末を使用したペーパーレスに取り組む大林組では、実際の施工場所にBIMデータの3Dモデルを重ねて表示するMR(複合現実)アプリholonica(ホロニカ)を開発し、従来の紙図面を使った仕上げ検査と比較して、検査時間の約30%の短縮を実現しました。今後は検査業務だけでなく、躯体工事の出来形確認、竣工後の維持管理業務にも適用範囲を広げていくとしています。
2021年には現場に設置されたロボットが左官職人の手の動きや力加減を再現する「建設技能作業再現システム」を、慶應義塾大学の研究チームと共同開発しています。施工場所の映像と「双方向の力触覚伝送」で遠隔にいる職人と現場を結び、ロボットアームに左官作業を行わせます。ロボット職人は厚さ1㎜以下の精度でコテの動きを再現し、本物の職人と同等の仕上がりを実証しました。このシステムが実用化されれば、技能労働者が移動することなく複数の現場を掛け持ちすることも可能となります。
2020年、大成建設はCDO(Chief Digital Officer=最高デジタル責任者)の役職を創設し、生産プロセス、経営基盤、サービス・ソリューションのDXを加速させ、BIM/CIM+IoTのデジタルツインをベースとしたフルデジタル化に取り組んでいます。
大成建設では、BIMデータを使用した仮想空間で素材の質感や色彩を確認できるデジタルモックアップや、3Dモデルで施工のプロセスを再現して現場作業者に施工イメージを周知するデジタルツイン技術を推進しています。ほかにも現実の映像に3Dモデルを重ねて投影するAR(拡張現実)技術で配管位置を確認するなどあらゆる業務にBIMデータを活用しています。
建設業界の課題である就業者の減少や長時間労働への対応を目的として、ロボットによる現場巡視を実用化しています。現場事務所や支店のオフィスなどから、カメラ・マイク・スピーカーを内蔵した四足歩行ロボットを遠隔操作して、現場巡視や作業員への指示、現場からの報告などを行います。ロボットは安価ながら運動性能に優れており、階段の昇降や20kg程度の重量物の運搬にも使用可能です。
建設業界で初めて3年連続で「DX銘柄」に選定された清水建設では、「ものづくりをデジタルで」「ものづくりを支えるデジタル」「デジタルな空間・サービスを提供」を掲げて、設計から竣工までのすべてのプロセスでデジタル化を推進しています。
デジタルとリアルのベストミックスを追求する清水建設ならではの発想で開発されたのが、現実世界にデジタル情報を加えて可視化するAR(拡張現実)技術による地中の建機をタブレットに表示するシステム「Shimz AR シールド」です。これまで地上からは位置の把握が難しかった「掘削作業で地中を移動するシールドマシン」をリアルタイムで現実の地上映像に重ねて可視化し、工事関係者や地域住民への工事の進捗説明を視覚的に行えるようにしました。
建物の着工から完成まで、建築確認に基づく諸検査がくり返し実施されています。その都度、検査担当者が現地に移動し、目視確認を行うのに膨大な時間を要しています。清水建設では(一財)日本建築センターの指導及び(株)積木製作の協力のもと、メタバース空間に再現した建物にスキャナやセンサからのデータとBIMを統合することで、VR(仮想現実)による諸検査の実施を可能としました。実際の建物での実証試験ではすでに実用レベルに達しているとの評価を受けています。
竹中工務店は、ソフトウェアの種類に依存しないオープンBIMの活用で協力会社と連携した建設DXを進めています。
日本建築センターの共有サーバーで管理するBIMデータから検査用のBIMモデルを生成し、MR用HMD(ヘッドマウントディスプレイ)を装着した検査員により、建物の法定完了検査を実証しました。数十枚に及ぶ紙図面の情報がHMDを通した画像に集約されることで効率がよく、図面に記載されていない管理記録も同時チェックが可能です。
設計BIMツールは、デジタル技術を活用して設計プロセスを革新し、理想の空間づくりを支援するDXツールです。設計BIMツールは、BIM(Building Information Modeling)技術を活用することで、顧客の要望を迅速かつ詳細に反映した設計案を短時間で作成することができます。また、建築、構造、設備の各分野の専門家が作成したBIMモデルを相互参照し、高度なシミュレーションを実施することで、多角的な視点から設計を検証することができ、より付加価値の高い提案が可能になります。
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