2021年に「メタバース」という言葉が注目を浴びて以降、VRはゲームから商業、観光、そして建設業界へと市場を拡大しています。ここでは、建設業におけるVRの役割やメリットを考察し、注意すべき点と導入する際の手順を解説します。また、VRの具体的な活用方法と実際の事例もご紹介します。
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VR(バーチャル・リアリティ)は「仮想現実」と訳されますが、建設業におけるVRとは主に仮想化された建築物や工事現場を指します。VR空間では、設計図面から完成形を3Dモデル化したり、現場の作業空間を疑似体験したりすることができます。
国土交通省が推進するi-Constructionにおいては、VRを使用して生産性の向上や安全管理に役立てるBIM/CIMの導入が推奨されており、VRは建設業DXの実現に重要な技術の一つです。
建設業にVRを活用することで、設計、施工、作業者教育などにおいて業務の効率化やコスト削減といったメリットが期待できます。
建築物を仮想空間で可視化する技術をBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)といいます。BIMは設計図面の情報を基にVRを用いて建築物を3Dモデル化し、設計から施工、保守までをシミュレーションする技術として活用が推進されています。
従来は会議や顧客へのプレゼンに2次元の設計図面やパース図を使用していましたが、想像力には個人差がありイメージがうまく伝わらないことが課題でした。VRを使用することで同じイメージを共有することができ、会議やプレゼンの進行がスムーズになります。
建築物の設計には、主に外観のデザインを設計する「意匠設計」、骨組みの強度に関わる「構造設計」、配線や配管を設計する「設備設計」があり、通常は個別に設計した図面を統合して完成形とします。2次元の図面を統合するには手間と時間だけでなく経験も必要ですが、BIMによる設計ならコンピュータが設計図を統合して3Dのパースを作成し、外観だけでなく内部を視覚的に確認することができます。
また、従来の設計であれば、デザインを修正すれば強度や配管に変更が生じ、逆に構造や配管を変更すればデザインの再検討が必要になるなど、もとは別の図面だったため、修正作業には時間と労力が必要です。
一方、VRを使用すれば、建築物の完成形に骨組みを重ねて表示したり、建物の内部から配管を確認したりできるので、「意匠」「構造」「設備」を一括で確認して修正できるため、設計作業の効率化が図れます。
建設業においては、カメラによる実写のVRが活用されています。例えば工事現場の状況を360度カメラで撮影した画像をVR化すれば、現場に行かなくてもすべての関係者が工事の進捗を確認することができます。
また、土木工事における「ICT活用工事」では、TS(トータルステーション)と呼ばれる専用システムやレーザースキャナーなどを用いた「3次元データによる出来形管理」が行われます。実際に測定した現場のスキャンデータからVR化した出来形の3Dモデルを設計データと比較し、出来形管理を効率的に行うことが可能です。
以上のように、施工段階でのVR活用は業務を効率化し、リソースの合理化とコストの削減に貢献します。
VRは施工管理者や現場作業員の技術研修・安全教育にも大きなメリットがあります。現場作業の研修では主に作業手順書やビデオが使用されますが、文書や映像だけでは実際の作業イメージがわかないため、研修の効果が低いという課題があります。
現場作業を360度カメラで撮影してVR化すれば、実際の作業手順に沿ったリアルな教育用コンテンツを作成することができます。例えばヘッドマウントディスプレイを使用したVR映像と音声・文字情報を合わせて使用すれば、作業手順と作業のポイントを同時に確認することができるため臨場感のある効果的な作業トレーニングが可能です。
同様に360度カメラのVR映像を使用して安全管理教育に使用することもできます。VRを使用すれば実際は安全な場所にいても、危険な場所で、危険な作業をおこなっているような臨場感のある体験をすることが可能です。
VRによる研修教材は技能労働者にわかりやすく、楽しく参加できるというメリットもあります。ヘッドマウントディスプレイとPCがあれば、いかなる場所でも参加でき、繰り返し使用できるので研修コストの削減にもつながります。
建設業でVRを使用する際の注意点は、導入時の初期費用、コンテンツ制作にかかる手間と設計に注意が必要です。また、ツールとして導入する場合は操作方法の習得が課題となります。
導入に際して最低限必要な機材はPCと専用ソフトウェアです。
導入にかかる一般的な機材購入費は、数万円から数十万円の範囲内に収まりますが、BIM/CIMの導入やクラウドサービスを利用する場合は、ソフトウェアやトレーニングに50~100万円程度の初期費用が必要となります。
さらに、目的に応じてヘッドマウントディスプレイやタブレットなどの表示端末や実写コンテンツを制作する場合には、360度カメラ、ドローン、レーザースキャナー等が別途必要な初期費用として挙げられます。
実写コンテンツの自主制作には最低限、VR映像の撮影と編集が必要です。外部に委託すると①企画、構成・②撮影・③編集それぞれに5~50万円程度の費用がかかります。自社で制作すれば撮影や編集の費用はかかりませんが、相応の手間がかかります。どのくらいの時間と手間が必要かは一概にいえませんが、制作期間の長さによっては外部委託したほうが安上がりな場合もあります。
設計ツールとしてVRを使用するために必要となるのがBIM/CIM等のモデリングソフトです。ソフトウェアの導入に際しては、専用の教材を使用した独学やソフトウェアの代理店が開催するセミナーを受講して、操作方法を習得する必要があります。
セミナー受講の場合、基礎的なセミナーに1日~2日、その後ソフトウェアの種別ごとに専門セミナーを受講するのが一般的です。独学、セミナー受講のいずれにしても操作方法の習得には時間と労力が必要です。
建設業におけるVRには以下の活用方法があります。
参加者全員がVRモデルでイメージを共有しながら会議を行うことで進行がスムーズになり、会議時間の短縮や会議の回数を減らすことができます。なかにはBIMでVR化した仮想空間内で会議を行えるツールもあります。
VRを顧客へのプレゼンテーションに活用すれば、外観・内観を360度パノラマ画像でビジュアル化することができます。顧客とイメージを共有できるため、顧客満足度の向上につながります。
BIMで作成したVRモデルなら、内装の変更や什器レイアウトの変更、外観デザインの変更など柔軟なシミュレーションが可能で、機能性やデザイン性の検討に活用できます。
従来は現場の一部を再現して行っていた作業訓練をVRに置き換えることで、訓練設備が不要となります。足場作業など危険が伴う場所でのVRトレーニングでは、墜落体験などを通じて危機意識を高められます。
VRの導入後に「意図したものと違うコンテンツになってしまった」「予算をオーバーしてしまった」「思ったほど効果が上がらなかった」とならないために、導入には計画性が必要です。以下に建設業でVRを導入するための5つのステップをご紹介します。
最初に、導入するのは設計支援か業務の効率化か等、自社の課題を洗い出し、導入する業務とゴールとなる最終目的を検討します。
ステップ①を踏まえて類似業務や類似目的の活用事例を収集します。自社と同じ業界だけでなく他の業界からも成功事例や失敗事例を収集し、先行事例から成功のポイントを見出します。
ステップ①②を踏まえて、VRで「何ができるのか」を確認して、費用対効果を検討します。
例えば、作業研修にVRを導入するとした場合、VRコンテンツでできることとその効果を見極め、既存のビデオや手順書との効果の差や削減できるコストなどをシミュレーションして得られるメリットを見極めたうえで、実施の可否を決定します。
ステップ①②③を踏まえて、VRをCGで制作するか実写映像を使用するか、表示方式はヘッドマウントディスプレイかタブレットやスマホなのか等、想定する使用環境から方式を選択したうえで、業務課題の解決とVRでできる事の最大化を図るコンテンツの概要を企画します。
コンテンツの概要が決定したら自社内で制作、または外注への委託によりコンテンツを制作して、テスト運用での効果測定と修正を何度か行い、運用方法を最適化します。
それでは、実際に建設業で活用されているVRの活用事例を紹介します。
鹿島建設は、リコーのバーチャルシステムを工事現場に導入し、現場全体を確認できる360度ライブ配信機能を持つ遠隔現場管理システムを運用しています。
本システムは360度カメラによって、これまでのカメラでは画面から外れてしまっていた部分まで確認できるようになりました。また、複数人が同時にVR空間に入場して自由にコミュニケーションをとることができるので、いつでも遠隔からの現場パトロールを実施できます。
大林組は建築CG・VRを得意とするコンテンツ開発の積木製作と共同で、体験型の施工管理者向け教育システムを開発し、2017年から自社内で運用しています。
大林組は、従来から型枠と鉄筋を組み上げた教育用の躯体モックアップを使用して不具合箇所を探す研修を行っていますが、不具合箇所は固定されているため、2回目以降の受講では効果が薄れてしまいます。
そこで、VR空間に教育用の躯体を作成し、受講者がヘッドマウントディスプレイを装着してバーチャル現場を歩き回り、鉄筋の不具合箇所を探すシステムを開発しました。研修用モックアップが不要となり、コストを削減したうえで、ゲーム感覚で何度でも行える教育システムとして運用しています。
静岡県の建築業・長谷川建設は、家を建てる前の打ち合わせで「2次元の図面による説明だけではリアリティに欠け、イメージがわかない」という課題をVRによる疑似体験で解決しています。
これまでも、3次元モデル化した内装に実際の壁紙素材を反映させるなどしてきましたが、大きさや空間のイメージがわかないという欠点がありました。そこで、ヘッドマウントディスプレイを装着して仮想化した建物の内部に入り込み、内装や空間のイメージをバーチャル体験できるVRプレゼンを制作しました。こうしたVRの活用により顧客満足度が向上し、受注拡大を図る体制が整いました。
清水建設は、海外の建設現場で働く現地職員向けにより分かりやすい安全教育を行うため、積木製作のサブスクリプションサービスでVR安全トレーニングを実施しました。
多言語化されたVRのなかでは、30メートルの高さでの高所作業や足場から落下する墜落体験もあり、安全帯の装着で墜落を防止できることを体感することができます。ほかにも旋回するバックホーのバケットと衝突したり、車体と衝突したりする疑似体験を通じて安全意識を体得することができます。
大成建設は日立グループ3社(株式会社日立コンサルティング、GlobalLogic Japan株式会社、株式会社日立社会情報サービス)と共同でBIMデータを活用した建設承認メタバースの開発に乗り出しています。
建設業の施工現場では紙の図面や目視での確認作業が習慣化しており、IT人材の不足も相まって業務の効率化に多くの課題が残されています。そこで、BIMデータから建築物の3次元モデルを作成し、関係者の合意形成を図ると共に発注者への承認を得るシステムの開発に着手しました。
仮想空間に再現された建築物を関係者がVR体験しながら、オンライン通話による説明やクラウド上での承認作業などを活用し、手戻りや工程の再調整を減らして業務効率化を目指します。
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