ARは、スマートフォンなどのカメラを通じた現実世界の映像に、文字や画像の情報を視覚的に重ね合わせて表示する技術で、建設業への活用が広がっています。建設業におけるARは、作業効率の向上、視覚的な情報共有、安全性の向上などさまざまなメリットがある一方、現実との誤差や情報の齟齬、データ管理やセキュリティ対策の整備が必要です。ここでは、建設業におけるARの活用法や導入方法、活用事例を解説します。
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目次
ARとは、「Augmented Reality」の略で、拡張現実と訳されます。スマートフォンやタブレットPC、スマートグラスなどのカメラを通じた現実世界の映像に、3次元のCGや文字などの情報を視覚的に重ね合わせて表示する技術です。
建築現場で活用されるARの仕組みは、利用する技術などにより、ロケーション(位置情報)ベースと、ビジョン(画像情報)ベースの2種類に分けられます。さらに、ビジョンベースには、マーカー型とマーカーレス型があります。それぞれの特徴と主な利用シーンについて説明します。
利用する技術 |
デバイスに搭載されたGPS、磁気センサー、加速度センサーなどの技術で取得した位置情報を利用 |
デジタル情報を表示するトリガー |
設定された場所に向かうと文字や画像の情報が表示される |
利用シーン |
建設現場における土地調査、建設予定地の確認、安全確保などの際に利用。 |
特徴 |
位置情報に基づくため、屋外での活用に適しているが、GPSの精度に影響を受ける。 |
利用する技術 |
デバイスに搭載されたカメラの画像認識 |
デジタル情報を表示するトリガー |
(マーカーを認識) |
利用シーン |
建築物や機器に矢印などのマーカーを設置し、その箇所のメンテナンス情報や操作方法のマニュアルなどが表示される |
特徴 |
予めマーカーの設定が必要で、現場にマーカーの設置の必要があるが、情報表示のスピードが早く、安定している |
利用する技術 |
デバイスに搭載されたカメラによる画像認識 |
デジタル情報を表示するトリガー |
(物体を認識) |
利用シーン |
設計段階やプレゼンテーションの際に、現実の風景に建築物の3D画像を重ねて表示する |
特徴 |
マーカーが不要なため外観は損なわれないが、開発に高度な技術が必要 |
建設現場でAR技術を活用すると、どのようなメリットがあるのでしょうか。以下に、建設業におけるAR活用のメリットを紹介します。
建設現場の現状に、作業段階の目標や工程などのデジタル情報を重ね合わせることで、進捗状況を視覚的に把握し、共有することが可能です。これにより、必要に応じたスケジュール調整や事前の人員確保、作業員の認識の一致を図ることができ、作業効率の向上やコスト削減が期待できます。
ARを活用することで、完成した建築物や細かい部分の設備などを、現実世界に重ね合わせて立体的に提示することができるため、設計者・施工者・発注者・作業者間において共通認識が得られやすく、イメージのギャップ解消につながるメリットがあります。
写真や図面だけでは伝わりにくいものでも、ARを活用することで、完成イメージや詳細な設備などを視覚的に提供できるため、正しい情報が伝わりやすくなります。そのため訴求力が高まり、お客様の満足度が向上するメリットがあります。
ARを活用することで、施工前に現実の建設現場に足場などを重ね合わせて、リスクの高い場所や干渉物を可視化することができます。それにより、危険な場所を作業員に周知し、安全に作業をするための動線をシミュレーションしたり、必要な安全対策を講じたりすることで、作業員の安全が確保できるメリットがあります。
資材や設備の種類、サイズなどを建設現場に重ね合わせることができるため、設計ミスや資材の誤発注などのトラブルを未然に防ぐことが可能になります。さらに資材の無駄や、適切な資材が納品されるまでの待ち時間など、不要なコストや時間を削減できるメリットがあります。
建設業においてARを活用する際の注意点は以下の通りです。
ARによる計測の精度は、使用環境によって誤差が生まれる可能性があり、必ずしも保証されているものではないことに注意が必要です。AR活用の評価を行いフィードバックすることで、ARの技術的精度を踏まえた活用法を検討する必要があります。
オフィスや建設現場において、大きいデータの送受信が可能な、高速で大容量のインターネット接続や電源供給の確保が不可欠なため、導入前の準備が必要です。通信状況の安定性を加味したAR活用の可否を確認する必要があります。
建設業におけるARでは、機密情報が含まれる大量のデータが発生するため、システムへの不正アクセスや情報漏洩を防ぐためのセキュリティ対策を講じることに注意が必要です。
建設業におけるARは、どのような場面で活用することができるのでしょうか。ARの活用方法について紹介します。
従来、設計図は紙ベースの平面でしたが、設計段階においてARを活用することで、完成した建築物のイメージを可視化し、周辺環境の中に立体的な画像として確認することができます。完成イメージが共有しやすく、「イメージが違った」などのトラブル回避につながります。
施工前に、仮設足場などを現地の画像に重ねて表示することで、施工中の動線の確保と作業員への共有、安全計画を事前に行うことができます。また、ARに画像解析や温度センサーを組み合わせることで、熱中症対策など安全な作業環境の確保に活用することが可能です。
施工中に、現実の建築物などに設計図を重ねて表示することで、進捗状況の把握が視覚的に可能となり、設計ミスや施工不良などへの早期対応が可能です。
建築物の完成後も、点検が必要な現場を視覚的に管理でき、マニュアルや修理方法のデータもその場で確認できるため、効率的な保守管理が可能となります。
現実世界にデジタル情報を重ね合わせることで、工程の確認や実際の現場における作業のシミュレーションなど、研修や教育に活用することができます。人材不足の建設業において後進の育成にも役立てることが期待できます。
地域住民への説明会やプレゼンテーションにおいて、ARの活用が進んでいます。例えば、現在の周辺環境に建築物の完成イメージを重ね合わせて表示したり、各施工段階の流れを動画で紹介したりするなど、最新のAR技術を体感することで、建設工事への理解と関心を深めることに寄与します。
建設業においてARを導入する6つのステップについて説明します。
現在の業務の状況と課題から、ARを導入する目的を明らかにし、費用対効果などの分析を踏まえて、社内や協力会社の関係者間でAR導入に向けた合意を得ます。
目的の実現に必要なソフトウェアやシステム、デバイス(スマートフォンやタブレットPC、 スマートグラスなど)の導入コストや維持管理コストとARで得られる成果を鑑みて、技術や製品を選定します。
ARの導入・運用にあたり、現場経験、ICTのスキル、セキュリティ対応能力、関係者との調整能力などさまざまなスキルが必要になるため、適切な人材を確保して運用体制を構築します。その中で、トラブルや事故発生時における責任の所在を明確にすることも重要です。
ARデバイスの操作方法習得のための、初期操作教育体制と、継続的な運用操作への疑問やトラブルに対応するユーザーサポート体制の構築を行います。
成果が出やすい小規模のプロジェクトで、部分的な利用から目的を絞って取り組むことで、AR導入の問題点や改善点を洗い出し、必要な調整を行います。
試験導入で得られた知見を踏まえて、順次ARを導入します。本格導入後も成果の評価、フィードバックに基づくPDCAサイクルを運用しながら、ARの活用法の改善や利用領域の拡大を目指します。
では、実際のAR活用事例について紹介します。
大林組は、専用機材を用いずに、iPhoneやiPadのカメラで、指定範囲の盛土や掘削土の土量計測や、地形の把握ができるアプリを開発。1人でも簡単に測量することができ、即時に画面上に測量結果が表示できるため、測量にかかる時間やコストの大幅な削減が可能となりました。
清水建設は、施工中の設備配管や建物の施工管理において、AR技術で現場の映像に設計図上のデータを重ね合わせ、そのデータ照合を支援するITシステムを開発。設計図上の情報と実際の建築物やその設備との照合が容易に画面上でできるようになり、施工管理における負担が大幅に削減されました。
三井住友建設は、コンクリート打設時における、締固め作業の定量的な管理をAR技術で行うシステムを開発。複数の現場の締固め作業をリアルタイムで行うことができるため人員やコストの削減、コンクリート充填の確実性と建築物の品質向上に寄与しました。
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