AI、IoT、VR技術の発展や5G(第5世代移動通信技術)の実現に伴い、リアル空間(現実空間)の情報を収集し、サイバー空間(仮想空間)に現実にあるものを(双子のように)再現する技術である「デジタルツイン」が注目されています。建設業においてもデジタルツインの導入が拡大しており、現地調査や業務の効率化、コスト削減、リスク管理、品質向上などに大きな役割を果たしています。本記事では、建設業におけるデジタルツインの活用方法や実際の事例について解説します。
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デジタルツインとは、リアル空間(現実空間)から収集した様々な情報を基に、サイバー空間(仮想空間)上でリアル空間にある環境を再現する技術のことです。現実にあるものとそっくりな双子(ツイン)をデジタルで構築するため、デジタルの双子(=デジタルツイン)と呼ばれています。
デジタルツインは建物や施設などに設置されたIoTセンサーによって、様々な情報をリアルタイムに収集し、AIが分析・処理をすることで、リアル空間と同じ環境をサイバー空間に構築する仕組みになっています。天候や風向きなどの気象情報や作業員の人数・配置情報、工事の進捗状況、機械の稼働状況など、あらゆるデータが反映され、より正確なシミュレーションや効率的なモニタリングが可能です。
デジタルツインは建設業界においても、企画から設計、施工、保守に至るまでの各フェーズで活用されています。IoTやAI、VR、5Gといったデジタルツインを支える基盤技術の発展に伴い、再現の精度は飛躍的に向上しており、市場規模は一層拡大していくことが予測されています。
建設業においてデジタルツインを活用するメリットには、次のような点が挙げられます。
デジタルツインを建設業に導入することで、業務の効率化が期待できます。サイバー空間でのシミュレーションによりプロジェクト全体をリアルタイムに把握できるため、業務に必要な人員や機器の配置、プロジェクトの設計から施工、保守に至るまでのプロセスの最適化を図れます。
デジタルツインの活用はコスト削減にもつながります。企画や設計の段階でデジタルツインを導入し、シミュレーションや試験を実施することで、これまで物理的な検証に費やしていた時間やコストを大幅に削減できます。設計の精度が向上するため、結果的に無駄なコストの削減が可能になります。
デジタルツインによりリスク管理の強化が図れます。シミュレーションにより建物の構造や施工上の問題を早期に把握し改善することで、予期せぬトラブルを回避できる可能性があります。また施工状況をリアルタイムかつ視覚的に確認できるため、安全性の向上に貢献します。
デジタルツインの活用は品質向上にも寄与します。現実空間では、画像認識技術を用いて繰り返しシミュレーションやテストの実施が可能なため、設計段階で不備を把握でき、修正・改善や設計の最適化が図れます。
建設業においては、設計や施工、保守などの段階でデジタルツインが活用されています。ここでは、その具体的な活用方法について解説します。
デジタルツインの効果的な活用方法のひとつが企画や設計段階でのシミュレーションです。施工前段階からシミュレーションを実施して設計図の視覚的な確認をし、不整合の改善に役立ちます。さらに建物やその周辺、地形の細部まで確認することで、効率的な設計が期待されます。
サイバー空間上に施工計画モデルを反映して事前にシミュレーションすることで、構造や作業手順の最適化が可能になり、修正のリスクを抑えることを目指します。また、施工中の課題を予測し、対応することで成果物の品質向上につながります。
リアルタイムにプロジェクト進捗状況を把握するのも、デジタルツインの有効な活用方法です。設計通りに施工が進んでいるか、安全面に問題がないかを確認できます。現場の状況を一元的に管理することで、トラブルが発生した際は迅速に対応でき、現場作業員への的確な指示も可能です。
デジタルツインは、建物のメンテナンスや管理にも活用できます。施工後の建物や設備、機器に点検・修理が必要となる情報を把握することで、適切なタイミングでメンテナンスの提供が可能になり、顧客満足度の向上にも寄与します。
デジタルツインは従業員の教育にも活用できます。各従業員の作業手順や優れたノウハウをデータとして蓄積して共有することで、従業員のスキルの向上が見込め、蓄積されたデータは自社の財産として継承できます。
建設業において、近年では様々な形でデジタルツインが活用されています。以下でデジタルツインの活用に成功した事例について見ていきましょう。
鹿島建設は建設現場内の資機材や人の位置を正確に把握できる「K-Field」を開発し、活用を進めてきました。同社はさらに建物の3次元情報を持つBIMと連携することで、資機材や人の位置、稼働状況などを建物の3Dモデル上にリアルタイムに表示できる現場管理システム「3D K-Field」を共同開発*しました。
これは、サイバー空間にある建物上に、建物内に配置されたカメラやIoTセンサーなどから得た情報を表示することで、現場全体の状態を可視化し、工事管理者がどこにいても、現場の状況を確認できるというものです。現場の様々な情報を同一画面に一元化して表示でき、遠隔での現場管理業務をサポートします。
「3D K-Field」は、デジタルツインとして大規模複合施設「HANEDA INNOVATION CITY」(2023年6月30日に全体竣工)をはじめとする様々な施設への導入が進んでいます。
*鹿島建設とマルティスープ株式会社・アジアクエスト株式会社で共同開発
清水建設は2022年12月より、デジタルツイン技術を活用し、工場の建設・運用の最適化を図るエンジニアリングサービス「Growing Factory(グローイングファクトリー)」を推進しています。
Growing Factoryでは、独自開発の生産シミュレーターと3Dプラントモデルの連携システムを利用して、サイバー空間にプラントモデルのデジタルツインを構築。初期設計段階では、複数のプランで稼働シミュレーションを実行することで、導入・運用コストや生産能力などを検証し、事業予算を踏まえた最適な設計計画を短時間で作成します。
また、工場稼働後は、稼働データを基に、生産ラインの稼働率や障害、構内の物流を可視化して運用改善が可能です。さらに、工場の電力使用データと過去の実績データを比較検証し使用電力の削減や工場立地に即した創エネルギー設備の導入やグリーン電力の活用検討をサポートします。
清水建設は今後、GrowingFactoryを活用した提案を広げ、さらに機能の拡張やUIの改善、自動化や連携範囲の拡大を図るとしています。
大成建設は、2022年11月より3D都市モデルを活用した、西新宿「シン・デジタルツイン」プロジェクトを推進しています。「シン・デジタルツイン」とは、レーザースキャンにより取得した地下空間や建物内部などのデータを既存のデータと組み合わせて、都市全体のデジタルツインを構築するまちづくり支援ツールです。シン・デジタルツインは3D都市モデルや、オープンデータ、エリア内のBIMデータ、3D点群データを組み合わせて構築されており、建物の内部や地上の段差・勾配、地下空間まで高品質なグラフィックで再現可能です。さらに、交通や人流などの測定データをインポートでき、デジタルツインを用いて分析できます。
西新宿「シン・デジタルツイン」プロジェクトでは、街の課題解決のために都市全体のデジタルツインを構築し、西新宿の移動経路の可視化や将来の街づくりの検討など様々な取り組みが行われています。
大林組は、2023年4月に容易にデジタルツインを実現できる「デジタルツインアプリ」の開発を発表しました。このアプリは、デジタルツインに必要な3Dモデルの登録や統合、描写などを1つのシステムで実行可能にし、直感的に操作できるシンプルなデザインと快適な動作を特徴としています。全てのデータがクラウド上に保存されており、ネット経由でデジタルツインを構築できるため、どこにいても現場状況を確認できます。また、現場巡視などで発見された安全指摘事項はデジタルツイン上で画像やファイルとともに共有でき、チャットによるコミュニケーションも可能となっています。
大林組は、建設現場におけるデジタルツインを業界のスタンダードとすべく、アプリの現場への適用と改良を進めており、将来的にはゼネコンや専門工事会社などに幅広く展開することで、建設業界のDX推進や生産性向上、働き方改革の実現に貢献していきたいとしています。
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