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フルハーネス型墜落制止用器具の原則義務化とは

労働災害のうち、死傷者数の多い事故の第2位は「墜落・転落」であり、令和3年には21,000人を超えています。特に建設業界の事故では、墜落・転落による死亡者数は全体の38%に上ります。そこで、厚生労働省は2018年度から5年間の「第13次労働災害防止計画」の中で、建設業界の死亡事故の原因となる「墜落・転落」を防止するために、フルハーネス型の着用を義務化し、安全な使用のためのガイドラインを策定しました。2022年1月2日以降、完全義務化となったフルハーネス型墜落制止用器具について、原則義務化の背景やフルハーネス型が原則義務化された作業について解説します。

この記事はこんな読者におすすめ

  • なぜフルハーネス型が原則義務化されたのか、その理由が知りたい
  • フルハーネス型が原則義務化された作業が知りたい
  • フルハーネス型の選び方がわからない
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1. フルハーネス型の原則義務がある作業とは

厚生労働省は、建設業等の高所作業において「高さ2m以上の箇所で、①作業床が設けられない、②作業床の端や開口部等に囲い、手すり、覆い等を設けられない箇所での作業」で使用する安全帯は、フルハーネス型が原則としました。ただし、墜落した時にフルハーネス型で地面に到達する可能性がある場合は、高さ6.75m(建設作業では5m、柱上作業では2m)以下に限り胴ベルト型(1本つり)の使用も認められます。また6.75m(建設作業では5m、柱上作業では2m)以上の高さでの作業は、フルハーネス型を使用しなければならない義務となりました。
ここではフルハーネス型の原則義務化の背景や、関係法令の改正のポイントを詳しく解説します 。

フルハーネス型原則義務化の背景

労働安全衛生法施行令(安衛令)において、以前から建設業などの2m以上の高所作業では、作業床や、作業床の端・開口部等に手すりや覆いなどの墜落防止措置が設置できない場合、労働者の墜落・転落を防止するための措置として安全帯が義務付けられており、胴ベルト型やフルハーネス型が使用されてきました。しかし、安全帯の不適切な使用や、胴ベルト型の構造上の特徴から、建設業界では特に「墜落・転落」による死亡災害や死傷災害が多くなっています。

厚生労働省では「労働災害防止計画」によって、建設業界における墜落・転落による死亡や死傷といった労働災害の減少をめざしており一定の効果をあげていますが、2018年~2022年の5年間で、さらに死亡災害の15%減少を目標としました。それを実現するためには、フルハーネス型の着用と適正な使用が有効であるとして、フルハーネス型を原則義務化したというのが背景です。

フルハーネス型が選ばれた理由

フルハーネス型が選ばれた理由は、胴ベルト型との構造や墜落制止時の姿勢などの違いにより、フルハーネス型の方が着用者の身体への負担が少なく、労働災害を防ぐ可能性が高いことが理由です。フルハーネス型と胴ベルト型の特徴は下記の通りです。

フルハーネス型と胴ベルト型の特徴

フルハーネス型 胴ベルト型
構造 肩、腰、腿など複数の部位で身体を保持 1本のベルトで腰部を保持
墜落制止時 ・衝撃が分散される
・ベルトのずれ上がりが少ない
・身体の抜け出しが少ない
・宙づり状態の姿勢は直立に近い
・胸部や腹部の圧迫が軽減
・衝撃による内臓の損傷のリスク
・宙づり状態でベルトによる胸部圧迫
・ベルトからの抜け落ちによる落下
・くの字や逆さま姿勢での失神など
特徴 ・体に対する負担が小さい
・救助しやすい
・身体に対する負担が大きい
・胴ベルト型使用による死亡災害などの発生が報告されている

フルハーネス型原則義務化を含めた変更点

2018年6月の関係法令の改正による変更点は以下の通りです。

1.安全帯は、「墜落制止用器具」に名称変更。

法令用語は「墜落制止用器具」ですが、建設現場などで「安全帯」「胴ベルト」「ハーネス型安全帯」などの用語を使うのは制限されていません。

2.墜落制止用器具として認められるのは「フルハーネス型」と「胴ベルト型(1本つり)」。

胴ベルト型安全帯のひとつである「U字つり」は、墜落を制止する機能がないことから「墜落制止用器具」からはずれました。U字つり用胴ベルトは、「ワークポジショニング用器具」の名称で、橋上や傾斜面などのU字つり状態で行うワークポジショニング作業で使用します。ただし、フルハーネス型を併用することが原則です。

3.墜落制止用器具は「フルハーネス型」の使用が原則。

墜落制止用器具はフルハーネス型が原則です。ただし、フルハーネス型では墜落時に地面に到達するような高さの場合には、高さ6.75m以下に限り、フルハーネス型よりも落下距離が短い胴ベルト型(1本つり)も使用することができます。
これは、高さが6.75m以下であれば胴ベルトを使うということではありません。ロック機能付き巻取り式ランヤードを使用したり、フック等の取り付け設備を高いところに設置したりするなど、フルハーネス型での落下距離を短くする方策を講じてもなお、地面に到達する可能性がある場合に、胴ベルト型の使用が認められているということです。
特に建設作業の場合には、胴ベルト型を使用できる高さは5mまでとし、5m以上の高所作業ではフルハーネス型が義務付けられています。

4.「安全衛生特別教育」が必要。

安全衛生特別教育の対象となる業務として、「高さが2m以上の箇所であって、作業床を設けることが困難なところにおいて、墜落制止用器具のうちフルハーネス型のものを用いて行う作業に係る業務」が追加になりました。つまり、作業床のある所でフルハーネス型を使用する場合には、受講の必要はありません。特別教育の内容と受講時間は、下表の通りです。

特別教育の内容と受講時間

学科科目

範囲 時間
Ⅰ.作業に関する知識 ①作業に用いる設備の種類、構造及び取扱い方法
②作業に用いる設備の点検及び整備の方法
③作業の方法
1
Ⅱ.墜落制止用器具
(フルハーネス型の物に限る。以下同じ。)
に関する知識
①墜落制止用器具のフルハーネス及びランヤードの種類及び構造
②墜落制止用器具のフルハーネスの装着の方法
③墜落制止用器具のランヤードの取付け設備等への取付け方法及び選定方法
④墜落制止用器具の点検及び整備の方法
⑤墜落制止用器具の関連器具の使用方法
2
Ⅲ.労働災害の防止に関する知識 ①墜落による労働災害の防止のための措置
②落下物による危険防止のための措置
③感電防止のための措置
④保護帽の使用方法及び保守点検の方法
⑤事故発生時の措置
⑥その他作業に伴う災害及びその防止方法
1
Ⅳ関係法令 安衛法、安衛令及び安衛則中の関係条項 0.5

実技科目

範囲 時間
Ⅴ.墜落制止用器具の使用方法等 ①墜落制止用器具のフルハーネスの装着の方法
②墜落制止用器具のランヤードの取付け設備等への取付け方法
③墜落による労働災害防止のための措置
④墜落制止用器具の点検及び整備の方法
1.5

また、フルハーネス型墜落制止用器具の使用などに関して、十分な知識及び経験があると認められる方については、学科・実技の一部の科目を省略することが可能です。

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2. フルハーネス型の義務化はいつから?

フルハーネス型の完全義務化は、2022年1月2日からです。
2018年6月に関係法令が改正となり、2019年2月1日から施行されましたが、2022年1月1日までを猶予期間として、改正前の規格の安全帯(胴ベルト型、フルハーネス型)も、販売・使用が可能でした。2022年1月2日からは、旧規格の安全帯は販売および使用することができないため注意が必要です。
新旧製品の見分け方として、改正前の旧製品には「安全帯」、改正後の新規格の製品には「墜落制止用器具の規格」適合品の記載があります 。

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3. 墜落制止用器具の選び方

墜落制止用器具の選び方は、「墜落制止用器具の規格(2019年1月25日改正)」(平成31年厚生労働省告示第11号)および、「墜落制止用器具の安全な使用に関するガイドライン」で規定されています。墜落制止用器具の選び方の要件を3つ紹介します。

要件1:6.75メートルを超える箇所では、フルハーネス型を選ぶこと

墜落制止用器具は、フルハーネス型を選ぶのが原則です。作業箇所の高さや作業の種類によって、例外的に胴ベルト(1本つり)を使用することもできますが、胴ベルトが使用できる高さには制限があり、高さ6.75mを超える箇所ではフルハーネス型を選ぶことが義務です。

フルハーネス型を選ぶ 胴ベルト型(1本つり)が認められる高さ
原則:
高さ2m以上で
作業床がない
作業床の端、開口部等で囲い、手すり等の設置が困難な場合
義務:
①②の条件で高さ6.75mを超えるの箇所
フルハーネス型で墜落時に地上に到達する可能性がある場合であって次の高さまで
高所作業:6.75m以下
建設作業:5m以下
柱上作業:2m未満

要件2:使用可能な最大重量に耐える器具を選ぶこと

墜落制止用器具には、使用可能な最大重量(85㎏または100㎏。特注品を除く)が定められています。器具を着用する方の体重と装備品の重さの合計が、使用可能な最大重量を超えないように、器具の記載をよく見て選びます。

要件3:フックを掛ける位置によって適切なショックアブソーバの種別を選ぶこと

ショックアブソーバとは、墜落を制止するときに生じる衝撃を緩和するための器具です。フックを掛ける位置により、選ぶショックアブソーバの種別が異なります。

フックの掛ける位置 ショックアブソーバの種別
腰の高さ以上 第1種ショックアブソーバ
(自由落下距離1.8mで墜落制止の時の衝撃荷重4.0kN以下)
・足下(鉄骨組み立て等)
・フックの掛ける位置が混在している場合
フルハーネス型を選定かつ
第2種ショックアブソーバ
(自由落下距離4.0mで墜落制止の時の衝撃荷重6.0kN以下)
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4. フルハーネス型の原則義務化のよくある質問

Q

フルハーネス型の原則義務化とは

A

フルハーネス型の原則義務化とは、高さ2m以上の高所で、作業床などの墜落防止措置の設置が困難な箇所で作業する時に使用しなければならない墜落制止用器具を、原則としてフルハーネス型とし、高さ6.75m超(建設作業では5m超、柱上作業では2m以上)での作業には、フルハーネス型の使用が義務化されたことです。

その目的は、墜落した時に着用者の負担が少ないフルハーネス型の使用を原則にすることで、死亡や死傷の労働災害の減少をめざすことです。フルハーネス型の原則義務化にともない、安全帯を見直し安全性を高めた新規格の墜落制止用器具とし、ガイドラインを策定して、安全で適切な使用がすすめられています。

Q

どのような時に胴ベルト型が使用できますか

A

フルハーネス型で着用者が地上に到達する可能性のある場合であって、高さが6.75m以下(建設作業では5m以下、柱上作業では2m未満)に限り、胴ベルト型の使用が認められています。ただし、高さ6.75m以下でも巻取り式ランヤードの使用やフックを掛ける位置を高くするなどして落下距離を短くする方策を講じ、できるだけフルハーネス型を使用することが原則です。

高さ6.75m超(建設作業では5m超、柱上作業では2m以上)では、フルハーネス型の使用が義務であり、胴ベルト型は使用できません。

Q

墜落制止用器具とは。安全帯との違いについて教えてください。

A

2018年の関係法令の改正により、胴ベルト型(1本つり)安全帯および、フルハーネス型安全帯は、墜落制止用器具に名称が変更になりました。合わせて、胴ベルト型(U字つり)は墜落制止用器具からはずれ、ワークポジショニング用器具として、柱上作業や傾斜面作業にのみフルハーネス型との併用で使用することになりました。ただし、安全帯の言葉の使用は制限されていません。

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本記事は2022年08月12日に作成されたものです。
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