大型の建設機械や重機、クレーンなどによる作業が同じ現場内で同時進行する建設現場。技術の進歩や安全管理の体系化により、現場での労働災害は年々減少していますが、死亡事故など重度の労働災害は後を絶ちません。そのため、建設業では安全教育が非常に重視されています。なぜ安全教育が大事なのか、いつ安全教育を行えばいいのか、事故事例を参考にその内容や必要性について解説します。
この記事はこんな読者におすすめ
- 安全教育はなぜやらなければならないのか知りたい
- 安全教育はいつ、誰が行えばいいのか知りたい
- 安全教育にはどんな種類があるのか知りたい
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目次
1. 建設業でなぜ安全教育が大事なのか
労働災害の撲滅は、すべての産業で重要な課題として取り組みが推進されています。そのため、ほかの業界とともに建設業でも事故の件数は減少しています。しかし、死亡者数はすべての産業のなかで建設業が最も多く、令和3年度は全産業の死亡者867人のうち、33.2%を占める288人が労働災害で死亡しているのです。
建設業はGDPの5.7%(※1)を占める、日本の基幹産業です。建設業の就業者数は令和3年で499万人(※2)おり、労働災害は非常に大きな経済的な損失をもたらします。事故による直接的な損害はもちろん、工事の中断・遅延、指名停止処分などによる事故1件あたりの損失金額も非常に高額となります。
※1 出典:一般社団法人 日本建設業連合会『建設業ハンドブック 2020』より
※2 出典:国土交通省『建設業の働き方改革の現状と課題』より
場合によっては、大きな社会的損失につながりかねない建設業の労働災害ですが、その原因の多くは規律違反や不安全行動などの人的要因です。個々の作業員が作業や現場に潜む危険を察知し、回避することで労働災害の多くは防ぐことが可能です。そのため、建設業では安全教育が重視されるのです。
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2. 安全教育をおこなうタイミング
安全教育には対象者に応じて実施すべきタイミングがあり、このうち、労働者の雇い入れ時、作業内容変更時、危険または有害な作業に就かせる際の安全教育は、労働安全衛生法で義務付けられています。そのほかにも職長・安全衛生責任者に対する安全教育や新しく現場で作業に就く作業者に対する新規入場者教育、現場単位で行われる建設従事者教育などがあります。
雇入れ時教育
雇入れ時教育は労働安全衛生法第59条に定められています。そのため、建設業だけでなくあらゆる業種で正規雇用、派遣、パート・アルバイトを問わず、すべての新規雇用者に対して行うことが義務付けられています。
雇入れ時教育の項目
- 機械、原材料などの危険性又は有害性及びこれらの取扱い方法に関すること
- 安全装置、有害物質抑制装置又は保護具の性能及びこれらの取扱い方法に関すること
- 作業手順に関すること
- 作業開始時の点検に関すること
- 当該業務に関して発生するおそれのある疾病の原因及び予防に関すること
- 整理、整頓及び清潔の保持に関すること
- 事故時などにおける応急措置及び退避に関すること
- 前号各に掲げるもののほか、当該業務に関する安全又は衛生のために必要な事項
作業内容変更時教育
作業内容変更時教育は雇入れ時教育と同様、労働安全衛生法第59条に定められた安全教育のひとつです。異なる作業を行う部署への配置転換や、大幅な作業方法の変更があったとき、異なる機械設備を使用する場合などに実施が義務付けられています。教育内容は雇入れ時教育に準じた項目で行います。
その他の安全教育
上記のほか、同じく労働安全衛生法第59条に定められた、危険有害業務従事者への特別教育と、同60条に定められた職長教育が法令で義務付けられています。ほかにも努力義務として、主に安全管理者などに対して行われる「労働災害防止のための業務に従事する者への能力向上教育」、クレーンやフォークリフト、チェーンソーによる伐木などの業務を対象とした「危険又は有害な業務に現に就いている者に対する安全衛生教育」、実施することで国土交通省や自治体の工事成績評定が加点される「建設従事者教育」などがあります。
また、下請け事業者が請負工事を新たに開始する際と、新規で作業に就く作業者が初めて現場に入る際に「新規入場者教育」を行うことが労働安全衛生規則第642条に定められています。
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3. 建設業における事故の種類
建設業における令和3年度の労働災害による死傷者数は、多い順に墜落・転落、はさまれ・巻き込まれ、転倒、落下物・飛来物となっています。死亡事故だけを見ると、墜落・転落、崩壊・倒壊、はさまれ・巻き込まれ、交通事故の順となっています。特に墜落・転落事故が突出して多く、2022年1月以降、墜落を防止する安全帯はフルハーネスの着用が完全義務化されました。以下に建設業における労働災害の事例を紹介します。
墜落・転落事故
安全帯を親綱につないでいない、あるいは移動の際に一時的に外していたために足場から墜落する事故が多くみられます。ほかにはヘルメットを正しく着用していないために、トラックの荷台や脚立から転落して頭部を強打する事例も多発しています。
交通事故
交通事故は、軽傷や物損まで含めると工事関係者ではない第三者を巻き込んだ交通事故も建設現場で多く発生しています。多くは交通誘導の不備によるものですが、現場にはダンプやトレーラーなどの大型車両がひんぱんに出入りしており、運転者の死角に入った作業者や交通誘導員がひかれる事故も多発しています。
はさまれ・巻き込まれ
車載クレーンでの吊り上げ作業において、トラックが傾いて作業者がはさまれたり、クレーンや杭打機のワイヤー巻き上げ時に手袋や足が巻き込まれたりする事例も建設作業中に多くみられます。ほかにもバックしてきた車両や重機と法面の間にはさまれる、敷鉄板の下敷きになるなどの事故があります。
崩壊・倒壊
建物の解体作業中に、壁面やブロック塀が倒壊して作業員が下敷きになる、地ならし中に法面が崩壊して土中に埋まるなどの事故がみられます。また、鉄筋やパイプなど資材置き場に積んである資材が崩れて下敷きになったり、コンクリートパネルや設置した造作物が倒れたりする事故もあります。
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4. 事故に対する対策方法
建設も含め、一般的に事故や災害を未然に防ぐための分析手法として、事故要因を4種類に分類する4Mが用いられます。事故事例に以下の4Mをあてはめて考えてみましょう。
■4M分類
- 人的要因(Man):作業者の心理的や能力に起因するもの
- 設備・機械(Machine):設備や機械の不備、器具に固有のリスクなど
- 環境・作業方法(Media):作業の環境や作業の方法に起因するもの
- 管理(Management):管理手法や適切ではないルールの運用など
墜落・落下事故
ビルの外壁工事に使用する足場からの墜落は、安全帯の使用に起因するケースが多くみられます。こうした墜落事故では、2丁掛けの安全帯を親綱の中継地点でフックをかける順番を誤った、あるいはフックのかけ方が不完全だったことが直接の原因です。フックをかけ損なった要因としては、日没後の作業で周囲が暗くなっていたことなどが認められます。
■4M対策
- 人的要因:周囲が暗くなり始めたら作業を終了する(不安全行動の回避)
- 設備・機械:安全帯の適切な使用方法について教育を徹底する
- 環境・作業方法:作業開始前に適切な使用方法を再確認する
- 管理:作業主任者などの監視人が不在とならないよう人員配置を強化する
交通事故
建設現場の内外で、交通誘導員や作業員がバックしてきた大型トラックにひかれる事故が多く発生しています。こうした事故では、作業員や誘導員が運転者の死角に入る、現場内にトラックがUターンするスペースがない、バック時の誘導者がいないことなどが原因として考えられます。
■4M対策
- 人的要因:現場では常に周囲に危険があるという危険感覚をもつよう徹底する
- 設備・機械:車両の移動は、あらかじめ決められたスケジュールや手順に従う
- 環境・作業方法:車両を動かす際は、必ず誘導員が決められた合図で誘導をおこなう
- 管理:誘導員あるいは作業主任者などが不在とならない体制をつくる
はさまれ・巻き込まれ
ユニック車の移動式クレーンで作業中にトラックが傾き、トラックと周囲にある手すりや壁面との間にはさまれる、あるいはトラックが傾いたために滑り落ちてきた荷物の下敷きになる事故がよくみられます。これらの事故ではブームの伸ばしすぎや傾けすぎ、アウトリガーの張り出し不十分など不適切な操作がおもな原因となっています。
■4M対策
- 人的要因:最大荷重を確認し、定格荷重を超えない範囲での作業を遵守する
- 設備・機械:アウトリガーを最大まで張り出すことを徹底する
- 環境・作業方法:作業中はブームの回旋側(吊っている側)に、人が立ち入らないよう徹底する
- 管理:作業開始前にKY活動やリスクアセスメントなどの安全活動をおこなう
崩壊・倒壊
民家やビル内の解体作業で地ならしや、はつり作業中にコンクリートやブロックの壁面が倒壊し、作業員が下敷きとなる事故が後を絶ちません。倒壊防止措置がされていない、倒壊の危険性に対する作業員の知識不足など、作業計画の不備がこうした事故の原因となります。
■4M対策
- 人的要因:危険性に対する認識不足、「大丈夫だろう」という誤った認識を正す
- 設備・機械:専門家による対象物の危険度に対して調査分析を行う、倒壊防止措置を施す
- 環境・作業方法:危険区域を定める、あるいは倒壊時に回避できる動線・スペースを確保する
- 管理:危険性を熟知した責任者や、職長を配置し適正な作業手順を定める
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5. 事故防止のためにすべきこと
労働災害や事故を未然に防ぐには、次のリスク対策をとることです。
- 作業ごとの安全に関するルールを定める
- 設備・機械の保全と正しい操作を徹底する
- 整理整頓をはじめとする、危険を排除するための環境整備する
さらに最も大切なことは、作業員一人ひとりの安全意識を高め、進んで不安全行動を排除する意志です。事故防止のためにも次に解説する現場での5S活動やKY活動を活用しましょう
5S活動
5S活動とは「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「しつけ」の5つのSをとったものです。
整理:必要なものと不要なものを選別し、不要なものを一掃すること
⇒必要があるかないかを判断することで、なにが重要なのかを理解できます。不要なものを処分すれば、使えるスペースが広くなり、無駄な探し物がなくなります。これによって、避難経路の確保などにつながり、現場環境から危険を排除しやすくなります。
整頓:必要な時に必要なモノを、必要なだけ取り出せるように置き場所や置き方を決めておくこと
⇒モノを探す時間やもとに戻す手間が省けることで、適切な道具や資材がすぐに使用でき、不安全行動につながる無駄な動作を省けます。
清掃:掃除を欠かさず、ゴミや汚れのない現場にすること
⇒周囲を常にきれいに清掃することで、機械や設備の予防保全につながり、故障も早い段階で発見することができます。毎日こまめに清掃しましょう。
清潔:3S(整理・整頓・清掃)の徹底をはかり、健康で快適な現場を維持すること
⇒3Sを継続していないと清潔は維持できません。清潔の度合いは3Sが行われているかどうかの目安となります。また、服装や身だしなみを整えることは、巻き込まれなどの危険を未然に防ぐことにもつながります。
しつけ:4S(整理・整頓・清掃・清潔)が現場の全員に周知徹底され、確実に実行されていること
⇒「5Sはしつけに始まりしつけに終わる」といわれます。4Sは押しつけではなく、本人の意思によって実行されなければ、現場環境と設備・機械の適正な保全や、事故を未然に防ぐ意識づけにつながりません。そのためにはしっかりとしたルールのもと、安全教育を実施していくことが重要です。
KY活動
KY(危険予知)活動とは、作業や現場環境にどのような危険が潜んでいるかを関係者全員であぶり出し、事故が発生する確率と事故の危険度を分析して、具体的な対策を立てる活動です。このKYミーティングのなかで確認された危険予知と対策は、KYカードや安全ミーティング報告書に記入し、適切に実践されたかどうかを毎日チェックします。
また、KY活動がKYK(危険予知活動)と呼ばれるのに対して、KYT(危険予知トレーニング・危険予知訓練)と呼ばれる、危険予知能力を高める実践的訓練を実施することも推奨されています。基本的にはKY活動と同じ内容ですが、手本となる作業を見たり、実際の作業をしたりするなど、より具体的で実践的な活動となっています。
現場管理者のコミュニケーション能力が高いと事故が少ない、とよくいわれますが、現場のコミュニケーションが良くとれていると、自然とお互いのことを思いやる風潮が生まれます。これこそが個々の安全意識を高め、事故を未然に防ぐ大きな原動力であることは多くの関係者が指摘するところです。安全教育は実施する側の心構えが重要であることの証しだといえるでしょう。
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