特定事業である建設業と造船業では、工事の規模が大きいため、元請負事業者は複数の下請負事業者に請け負わせることが多く、異なる下請負事業者の労働者が同一の事業場に混在して作業に当たることが少なくありません。このような事業場において、労働災害や労働者の健康被害を未然に防ぐために、元請負事業者には事業場の規模に応じて、統括して管理する者を置くことが労働安全衛生法により義務付けられています。ここでは、特定事業の事業場における安全衛生を統括して管理する統括安全衛生責任者について、選任要件や職務など詳しく解説します。
この記事はこんな読者におすすめ
- 統括安全衛生責任者とは、どのような仕事をするのかを知りたい
- 統括安全衛生責任者の選任要件が知りたい
- 統括安全衛生責任者と類似の職種との違いを知りたい
お役立ち資料
3分で読める!グリーンファイルを電子化した方が良い理由
グリーンファイルを紙媒体でおこなう課題と電子媒体にするメリットについて、両者を比較しながらわかりやすく解説します。
PDFで詳しく見る
目次
1. 統括安全衛生責任者
統括安全衛生責任者について、選任する目的や職務内容、選任要件について解説します。
統括安全衛生責任者とは
統括安全衛生責任者とは、特定事業である建設業と造船業の2業種において、同一の事業場で常時複数の労働者が混在して作業がおこなわれる場合に生じる労働災害や健康被害を未然に防ぐため、事業場を統括して管理する責任者のことです。統括安全衛生責任者は、元請負事業者である特定元方事業者が選任します。
統括安全衛生責任者の職務
統括安全衛生責任者の職務は、自らの補佐役である元方安全衛生管理者を指揮し、次の6項目について統括管理することです。
1) 協議組織の設置及び運営
2) 作業間の連絡及び調整
3) 作業場所の巡視
4) 関係請負人がおこなう労働者の安全衛生教育に対する指導及び援助
5) 仕事の工程、機械・設備等の配置についての計画作成と、機械・設備等を使用する作業に関し、関係請負人が関係法令の規定に基づいて講じなければならない措置についての指導
6)1)~5)の他に、労働災害を防止するために必要な事項
統括安全衛生責任者の選任要件
統括安全衛生責任者の選任要件は、工事の種類によって異なります。まず、工事の種類によって同一の場所の範囲(表1)が定められています。その同一の場所の範囲内において、常時混在して作業をおこなっている元請負事業者から下請負事業者まですべての労働者の人数で、選任要件が定められています。(表2)
例えば、ビル建設工事の場合、当該工事の作業場の全域に、常時50人以上の労働者が混在して作業をおこなう場合に、特定元方事業者は統括安全衛生責任者を選任することが義務付けられています。
表1 工事の種類別に定められた同一の場所の範囲
業種 | 工事の種類 | 同一の場所の範囲 | |
---|---|---|---|
建設業 | 建築工事関係 | ビル建設工事 | 当該工事の作業場の全域 |
鉄塔建設工事 | 当該工事の作業場の全域 | ||
送配電線電気工事 | 当該工事の工区ごと | ||
変電所又は火力発電所建設工事 | 当該工事の作業場の全域 | ||
土木工事関係 | 地下鉄道建設工事 | 当該工事の工区ごと | |
道路建設工事 | 当該工事の工区ごと | ||
ずい道建設工事 | 当該工事の工区ごと | ||
橋梁建設工事 | 当該工事の作業場の全域 | ||
水力発電所建設工事 | 堰堤工事の作業場の全域 | ||
水路ずい道工事の工区ごと | |||
発電所建設工事の作業場の全域 | |||
造船業 | 造船業関係 | 船殻作業場の全域、艤装又は修理作業場の全域、造機作業場の全域又は造船所の全域 |
表2 統括安全衛生責任者の選任要件
工事の種類 | 常時労働者人数 |
---|---|
ずい道等の建設の仕事 | 30人以上の場合に選任する |
圧気工法による作業をおこなう仕事 | |
橋梁の建設の仕事 | |
鉄骨造り、鉄骨鉄筋コンクリート造りの建築物の建設の仕事 | 50人以上の場合に選任する |
その他の仕事(造船現場、木造建築、改修補修工事現場等) |
労働者数がおおむね10~49人で統括安全衛生責任者の選任要件に満たない事業場の場合でも、安全衛生管理のために、統括安全衛生責任者に準ずる者を選任することが定められています。
お役立ち資料
PDFで詳しく見る
2. 統括安全衛生責任者に必要な資格
統括安全衛生責任者は、事業場においてその事業の実施を統括管理できる方とされており、必要な資格は特にありません。ただし、統括安全衛生責任者に選任される方は、統括安全衛生管理に関する教育を受けている必要があります。それは、特定元方事業者が統括安全衛生責任者を選任する際には、「元方事業者による建設現場安全管理指針」により、教育を受けている方の中から選任することとなっているからです。
お役立ち資料
PDFで詳しく見る
3. 類似の職種との違い
統括安全衛生責任者と類似の職種として、「元方安全衛生管理者」、「店社安全衛生管理者」、「統括安全衛生管理者」があります。統括安全衛生責任者とどのような違いがあるのでしょうか。ここでは、類似の他の職種について説明していきましょう。
元方安全衛生管理者との違い
元方安全衛生管理者は、特定元方事業者が統括安全衛生責任者を選任した時に、統括安全衛生責任者の補佐役として選任されます。統括安全衛生責任者の指揮の下、統括安全衛生責任者の職務のうち、具体的に技術的な事項を管理します。
統括安全衛生責任者には資格が必要ありませんでしたが、元方安全衛生管理者には、学歴や建設工事の施工における安全衛生の実務に従事した経験などの資格が必要です。
店社安全衛生管理者との違い
店社安全衛生管理者は、統括安全衛生責任者が選任される事業場よりも、常時労働者人数が少ない事業場の場合に選任されます。その工事の種類と常時労働者人数は表3の通りです。店社安全衛生管理者は特定事業のうち、建設業のみに選任され、造船業にはありません。また、選任した場合でも、労働基準監督署への届出の義務はありません。
店社安全衛生管理者の職務は、事業場で実際に安全衛生管理をおこなう工事現場責任者や現場代理人などに対する指導などです。また、統括安全衛生責任者には資格が必要ありませんでしたが、店社安全衛生管理者には、学歴や建設工事の施工における安全衛生の実務に従事した経験などの資格が必要です。
表3 店社安全衛生管理者の選任要件
工事の種類 | 常時労働者人数 |
---|---|
ずい道等の建設の仕事 | 20人以上30人未満の場合に選任 |
圧気工法による作業をおこなう仕事 | |
橋梁の建設の仕事 | |
鉄骨造り、鉄骨鉄筋コンクリート造りの建築物の建設の仕事 | 20人以上50人未満の場合に選任 |
総括安全衛生管理者との違い
総括安全衛生管理者と統括安全衛生責任者との違いは、取り扱う業種と事業場の規模および、その職務です。
業種と事業場の規模
総括安全衛生管理者は、建設業および造船業以外の業種において、一定規模以上の事業場の場合に選任されます。選任すべき業種と常時労働者人数は表4の通りです。その他の業種とは、例えば、製造業における製造をおこなわない本社機能のみを有する事業場などのことです。
表4 総括安全衛生管理者の選任要件
業種 | 常時労働者人数 |
---|---|
林業、鉱業、建設業、運送業、清掃業 | 100人以上 |
製造業(物の加工業を含む。)、電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、各種商品卸売業、家具・建具・じゅう器等卸売業、各種商品小売業、家具・建具・じゅう器等小売業、燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業、自動車整備業及び機械修理業 | 300人以上 |
その他の業種 | 1000人以上 |
総括安全衛生管理者の職務
総括安全衛生管理者の職務は、一定の業種とその規模ごとにそれぞれ選任される安全管理者や衛生管理者を指揮することと、労働者の危険または健康被害を防止するために、次の業務を統括管理することです。
- 労働者の危険又は健康障害を防止するための措置に関すること
- 労働者の安全又は衛生のための教育の実施に関すること
- 健康診断の実施その他健康の保持増進のための措置に関すること
- 労働災害の原因の調査及び再発防止対策に関すること
- 安全衛生に関する方針の表明に関すること
- 危険性又は有害性等の調査及びその結果に基づき講ずる措置に関すること
- 安全衛生に関する計画の作成、実施、評価及び改善に関すること
- その他労働災害を防止するため必要な業務
お役立ち資料
PDFで詳しく見る
関連するお役立ち資料のダウンロード