リスクアセスメントとは現場に潜むリスク要因(危険性や有害性)を調査し、災害に至る可能性や被害の大きさをアセスメント(評価・分析)することを指します。実際には調査結果をもとに災害対策(リスク低減措置)を実施するまでを含めます。ここではリスクアセスメントの手法と実施記録の書き方を、実際の記入例をもとに詳しく解説します。
この記事はこんな読者におすすめ
- リスクアセスメントとは何かを知りたい
- リスクアセスメントのやり方、手順を知りたい
- リスクアセスメント実施記録の書き方を知りたい
セミナー情報
労務安全書類はペーパレス化できる?グリーンファイルを電子化したほうが良い理由を解説!
現場DXがますます進む建設業界。ペーパーレス化に取り組む企業が増加している昨今、労務安全書類の作成にかかる業務をより効率化し、省人化や省力化を図る建...
申込後すぐに視聴可能
目次
1.リスクアセスメントとは
リスクアセスメントとは、以下の一連のプロセスを指します。
①リスク=労働災害につながる危険性や有害性を見つけ出し、
②リスクの評価と採点をおこない、
③必要に応じて対策や改善措置を講じる
建設現場のように「安全管理者」を専任する義務のある事業場では、労働安全衛生法によってリスクアセスメントの実施は努力義務とされています。建設業は全産業のなかで労働災害による死者がもっとも多く、リスクアセスメントは非常に重要な役割を担っています。
労務安全書類はペーパレス化できる?グリーンファイルを電子化したほうが良い理由を解説!
申込後すぐに視聴可能
2. リスクアセスメントの手法
1970年代のイギリスで「5つのステップ」によるリスクアセスメントの手法が確立され、大きな成果を上げたことから、これを手本として日本でも2006年に法制化されました。以下に一般的なリスクアセスメントの手順をご紹介します。
- 危険性または有害性の特定
- ①リスクの見積もり
②リスクの優先順位付け - リスク低減措置の検討
- リスク低減措置の実施
- 記録と有効性の確認
リスクの洗い出し(危険性または有害性の特定)
リスクアセスメントは潜在的に存在する「危険性または有害性を特定する」ことから始めます。危険性や有害性は存在するだけでは労働災害に至りませんので、特定した危険性や有害性が労働災害に至るプロセスの予測が重要です。
そのためには作業計画や作業手順書に記載された作業を細分化し、「○○をするとき、○○をしたため、○○になる」というプロセスを明確にします。また、どのような危険性や有害性が存在するかについては、他の現場で起きた災害やヒヤリハット事例、安全パトロールによる気づき、設備や資材の状態などからできるだけ多くの情報を集めることが重要です。
リスクの評価(リスクの見積もりと優先順位付け)
危険性や有害性を特定したら、次にどのくらいのリスクなのかを見積もります。リスクの見積もりは発生する可能性の高さと、災害の程度の両方をかけ合わせて評価します。リスクを見積もったら優先度の順位付けをして、優先度の高い順にリスク低減措置の検討に移ります。
負傷又は疾病の重篤度の区分(災害の程度)
重篤度(災害の程度) | 災害の程度・内容の目安 |
× 致命的・重大 | 死亡災害や身体の一部に永久的損傷をともなう事故や災害 1か月以上の休業災害 一度に多数の被災者をともなう事故や災害 |
△ 中程度 | 1か月以上の休業災害 一度に複数の被災者をともなう事故や災害 |
○ 軽 度 | 不休災害やかすり傷程度の事故や災害 |
負傷又は疾病の発生の可能性の区分
(危険性又は有害性への接近の頻度や時間、回避の可能性等を考慮して区分します。)
発生の可能性の度合い | 内容の目安 |
× 高いか比較的高い | 毎日、あるいは日常的に危険性や有害性に接近している 意識的に高い注意力を働かせていないと回避が困難 年に数回は発生するおそれがある |
△ 可能性がある | ときどき危険性や有害性に接近することがある 通常程度の注意を怠ると災害につながる可能性がある 10年に数回は発生するおそれがある |
○ ほとんどない | たまに危険性や有害性に接近することがある 通常は災害にならない、または通常の注意力で回避することが可能 10年に1度くらいは発生すると思われる |
リスクの見積もり(マトリクス法)
重篤度 発生の可能性の度合い |
負傷又は疾病の重篤度 | |||
致命的・重大 × |
中程度 △ |
軽 度 ○ |
||
負傷又は疾病の発生の可能性 | 高い・比較的高い × |
Ⅲ | Ⅲ | Ⅱ |
可能性がある △ |
Ⅲ | Ⅱ | Ⅰ | |
ほとんどない ○ |
Ⅱ | Ⅰ | Ⅰ |
優先度の決定
リスクの程度 | 優先度 | |
Ⅲ | ただちに解決すべき、又は重大なリスクがある | 措置を講ずるまで作業を停止する必要がある 充分な費用と労力を投入する必要がある 根本的な対策が必要 |
Ⅱ | 速やかにリスク低減措置を講ずる必要がある | 措置を講ずるまで作業を中断する必要がある 優先的に費用と労力を投入する必要がある 速やかな改善が必要 |
Ⅰ | 必要に応じてリスク低減措置を講ずる必要がある | 現時点では作業を継続させてもよい 必要に応じてリスク低減措置を実施する 費用と労力を計画的に投入していく |
リスク対策の計画(リスク低減措置の検討)
リスク低減措置を検討する際は、まず法令に定められた事項を必ず実施したのち、リスクの優先順位が高いものから検討を進めます。
本質的な対策
危険な作業をなくす、あるいは別の作業に変更するなど、作業の計画段階でリスクを取り除くか低減するための措置を検討します。
設備や機械など工学的対策
機械や設備に防護柵や防護板を設置したり手すりや囲いを用いたりして、危険性に接近しないようにします。
管理的対策
作業手順書やマニュアルの整備、正しい判断や作業方法の理解を促す教育訓練の実施と合わせて、立ち入り禁止区域を設定するなど、ヒューマンエラーによるリスクを低減させる検討をおこないます。
保護具の使用による対策
上記の対策をすべて検討したうえで、ヘルメット、防護服、安全靴、防護マスクなど個人用保護具の使用を検討します。保護具の使用は最後の手段であり、その他の低減措置を十分に講じたうえで実施するものとします。
リスク対策の実施(リスク低減措置の実施)
必要な検討をすべておこない決定されたリスク低減措置を実施したら、予想通りの結果が得られたのか検証をおこないます。リスク低減措置は正しく実施されたのか、実施した結果リスクは除去あるいは低減されたのか、実施と検証を繰り返すことでリスクアセスメントの精度を向上させていきます。
現在の技術水準や費用など、さまざまな制約によってリスクが十分に低減されず「残留リスク」となった場合は「暫定措置」を講じて、恒久対策は次年度以降の安全衛生管理計画に反映させ、計画的にリスクの解消を図ります。
リスク対策の評価(記録と有効性の確認)
リスク低減措置の実施状況を記録し、想定した実施結果が得られたかどうか有効性の確認をおこない、見直しや改善の必要性を検討します。安全衛生計画や次のリスクアセスメントに活かして安全衛生水準の向上に役立てるため、リスクアセスメント実施一覧表を保管します。
労務安全書類はペーパレス化できる?グリーンファイルを電子化したほうが良い理由を解説!
申込後すぐに視聴可能
3. リスクアセスメントの書き方と記入例
厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」では、ガイダンスに沿って進めることでリスクアセスメント一覧表が作成できるツールが公開されています。本項では上記のサイトからダウンロード可能な汎用テンプレートを使用して書き方を説明します。
リスクアセスメント実施一覧表テンプレート
対象現場名、実施担当者、実施日
リスクアセスメントをおこなう現場の名称、リスク低減措置を実施する担当者名、実施日を記入します。
作業区分、作業名
作業区分「移動式クレーンでの玉掛作業」、作業名「荷台上での吊り上げ作業」など具体的な作業名称を記入します。
発生するおそれのある災害とその原因(危険性または有害性)
危険性または有害性が災害に至るプロセス「○○したとき、○○なので、○○になる」を記入します。
例)荷物を吊り上げたとき、荷が揺れて、玉掛作業者に衝突する
既存の災害防止措置
既存で実施している災害防止対策がある場合は、記入します。
例)目視確認と指さし呼称を実施、など
リスクの見積もり
重篤度、可能性、優先度をそれぞれ記入します。
追加のリスク低減措置案
追加でできるリスク低減措置案を具体的に記入します。
例)必ず地切りをする。玉掛者は荷から離れ、介錯ロープで荷を安定させる。
リスク低減措置実施後に想定されるリスク見積もり
重篤度、可能性、優先度、それぞれについて低減された数値、レベルを記入します。
リスク低減措置の実施日と残留リスク、次年度の検討事項など
リスク低減措置実施後は実施した日付を記入し、残留リスクや改善点がある場合は次年度の安全衛生計画に反映させる欄を追加します。
残留リスクや改善点などを記入する欄を追加した場合。
安全衛生管理者と現場責任者の確認
現場のリスクアセスメント責任者(職長、安全衛生管理者など)と現場責任者(現場代理人、現場所長など)が確認し、署名または押印します。
労務安全書類はペーパレス化できる?グリーンファイルを電子化したほうが良い理由を解説!
申込後すぐに視聴可能
関連するお役立ち資料のダウンロード